忙しい医療現場で、つい患者さんの「痛い」「しんどい」に「仕方がない」と妥協してしまう──そんな経験はありませんか?
この連載では、日々の看護業務で出遭う難しいニーズに対して、すぐに使える緩和ケアの引き出しを紹介します。患者さんに自信を持って「次の一手」を示せる看護──そのヒントをお届けします。
水も息止めも舌引っ張りも、全部効かないしゃっくり
ナースちゃん:
先生……。私、また敗北しました……。
先生:
どうしたの。今度は何にやられたの。
ナースちゃん:
しゃっくりですよ、しゃっくり。受け持ちの患者さん、もう3日止まらなくて。私、裏ワザ袋ぜんぶ出したんですよ。水も飲ませた、息も止めさせた、舌だって引っ張った。ご家族も総出で「驚かせる係」やってた。それでも止まらなくて。
先生:
おお、それはフルコースだね。
ナースちゃん:
それでも患者さん眠れなくて、ご家族もげっそりして。最終的に担当医に報告したらコントミン出てきて、患者さんフラフラになって。なんかこう、敗北感だけが残るんですよね。
先生:
んー、それは単なる敗北じゃないかもしれないよ。たぶんナースちゃん、やってたことは間違ってなかったんじゃないかな。ただ、実は戦う相手が違っていたという。
ナースちゃん:
え、相手間違えてました? しゃっくり相手にしたつもりが、別の何かにパンチ繰り出してたみたいな?
「水飲ませる」「驚かせる」は実は医学的に正しい
先生:
まずしゃっくり対策の「裏ワザ」って言うけど、あれ実はただの迷信ばかりじゃないんだよ! ちゃんと医学的に説明がつく介入もけっこうあるんだ。しゃっくりって、迷走神経・横隔神経・延髄のしゃっくり中枢でつながった反射弓の暴走なんだよ。有効な裏ワザは、反射弓のどこかを刺激してリセットを狙ってるんだ。
ナースちゃん:
え、私、おばあちゃんの知恵袋を渋々やってる気分だったんですけど、あれ全部、神経学だったんですか。
先生:
水を飲むのは咽頭・食道の刺激で迷走神経を介して反射弓を遮断する。Valsalva(息こらえ)や紙袋呼吸はPaCO2を上げて中枢に効かせる。舌を引っ張るのは迷走神経の直接刺激。驚かせると交感神経が一瞬走って反射弓のリセットがかかると考えられているよ。膝抱えて前屈するのも、横隔膜への圧変化でリセットを狙ったものだね。
ナースちゃん:
しゃっくりで膝抱えろとか、マジでただの悪ふざけだと思ってました……。私、看護学校でこんなん習った覚えないんですけど。なんで実地で配ってんのこれ。
えっそんなのまであるの——論文に載った驚きの裏ワザ
先生:
さらにこの手の「裏ワザ」って、論文ネタの宝庫なんだ。覚えとくと、患者さんのケアだけじゃなくて、プライベートでもしゃっくりの引き出しになるよ!
ナースちゃん:
あ、それうれしいやつ。患者さんで使えるかは置いといて、姪っ子のしゃっくりに「すごい! ナースちゃん本当の看護師さんみたい!」って言われたいです。
先生:
本物みたい、でいいんだね……。OK、じゃあまずは、砂糖スプーン1杯。乾いた白砂糖を飲み込ませるだけで、患者20例中19例でしゃっくりが即時消失したっていう報告があるよ。しかも、掲載誌、The New England Journal of Medicineね。
ナースちゃん:
砂糖一杯がNEJM? 冗談みたいな内容なのに、出典は世界の超トップジャーナルじゃないですか!
先生:
うん。口蓋・咽頭の機械的かつ化学的な刺激が、舌咽神経と迷走神経の終末を刺激するんだろうって考察されてる。ちなみにNGチューブで咽頭後壁を擦るっていう介入もあって、これは1967年のJAMAに「85例中84例で即時消失」という報告がある。ただしこの85例のうち65例は麻酔下で、純粋に意識下覚醒患者の数字じゃないことには注意。意識下20例でも大半で消えてるから有力な選択肢ではあるけど。
ナースちゃん:
しゃっくりにNGチューブって……。私が病棟でやってる「水どうぞ」より勝率高そうですけど。確かに意識ある人に、しゃっくり止めるためにNGチューブ入れるのは、ちょっとメリットデメリット釣り合ってないかもですね。
先生:
あとは直腸マッサージ。難治性しゃっくりが直腸を指でぐるぐるしただけで消えたっていう症例報告がある。Fesmire先生はこれで2006年にイグノーベル医学賞を受賞しているよ。
ナースちゃん:
イグノーベル直腸マッサージ。いや、現場で「ちょっと失礼します」とは言えないでしょ。それを論文に書こうって発想からして強いな。
先生:
N=1の逸話レベルだし、まあ実臨床で勧めるって話じゃないよね。あくまで反射弓の遠位にも刺激入れるとリセットされうるっていうトリビアだね。あと最近のだと、PCR用の鼻腔スワブで鼻咽頭を5秒刺激したらしゃっくりが消えたっていう2025年の症例報告もある。鼻心臓反射が観察されたらしい。これもN=1だから、姪っ子ちゃんの鼻に綿棒突っ込んで嫌われないようにね。
ナースちゃん:
鼻にスワブで止まる。あの検査が、実は治療と紙一重だったとは……。なんか感情の整理がつかないな。
先生:
最後に、FISSTっていう特殊ストロー。弁付きの硬質ストローで水を吸って飲み込むだけ。249件の調査で92%で止まったと報告されてて、HiccAwayって名前で市販もされてる。要するにValsalvaを器具で自動化したものだね。キャッチコピーは「21世紀のしゃっくりの止め方」だよ。
ナースちゃん:
JAMA Network Openでストロー。もう医学雑誌が通販のカタログになってる……。
【急性しゃっくり】裏ワザレパートリー — 反射弓を狙った介入一覧
(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
こうやって並べると、私の裏ワザ袋、もはや反射弓ハッキング集ですね。患者さんの神経に勝手にログインしてる感ある。
先生:
近年は急性しゃっくりへの非薬物介入のRCTもちゃんと出てるんだよ。化学療法後の急性しゃっくり654例で、患者さんが自分で選べる複数の非薬物介入が、対照群より有意に寛解までの時間を短縮した。実態はもともと多くが自然軽快する集団なので、効果量は「治す」より「早く終わらせる」だけどね。それでも、急性しゃっくりに対しては、裏ワザはちゃんと資産なんだ。砂糖もNGチューブもN=1ネタも、姪っ子に披露する話と、患者さんに使う話は別物だけど、知っといて損はない。
ナースちゃん:
……じゃあなんで私、3日戦って敗北感だけ持って帰ってきたんですか。私の知恵袋は資産のはずなのに。残高マイナスなんですけど。
先生:
そう、実はそこが今日のいちばん大事な話なんだ!
患者さんの「止まらないしゃっくり」は、実はもう別の世界の話
先生:
しゃっくりは持続期間で3つに分けられるって知ってた?
ナースちゃん:
100回越えるか、越えないか?
先生:
48時間以内に収まるしゃっくりは、急性に分類される。持続性は48時間から1ヶ月、難治性は1ヶ月以上のものを言うよ。
【急性/持続性/難治性】しゃっくりの3分類とナースの動き方
(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
3つの線が引かれた途端、急に医学になりましたね。ということはもしかして私、急性しゃっくりとタイマン張ってたつもりが、気づいたら別ジャンルのボス戦に迷い込んでたってことだったんですか?
先生:
そう。急性はさっきの裏ワザの世界。でも持続性以降は別の話なんだ。反射弓の暴走の背景に、GERDとか中枢性病変とか、薬剤性・代謝性などの、何らかの原因疾患が関わってくる。健康な人の良性症状とは、既に質が違うんだよね。がん患者さんでしゃっくりが続いたケースを実態調査した報告があって、不眠が16%、ER受診や入院が11%、筋骨格痛が7%出てる。こうなってくると、もはや「ただのしゃっくり」じゃなくて、生活を壊す苦痛症状なんだよ。
ナースちゃん:
うわ、不眠16%。私が見てた患者さんもそうでした。じゃあ「水を飲ませても止まらなかった」のは、患者さんのやり方が間違っていたのでも、私のやり方が悪かったからでもなかったんですね。
先生:
そう、違ったんだ。むしろ、ここで裏ワザを出し続けると、患者さんも疲弊するし、看護師も「治せない自分」を責めちゃう構造になってしまいかねない。
ナースちゃん:
つまり私、K-1ルールでPRIDEに挑んでたってわけですか! くそぅ、それじゃあミルコでも勝ってこないじゃん。ってか、薬出す権限もない私、それなら何で戦えばいいってんですか!
ナースが動ける3つの軸——チームの初動を作る
先生:
看護師はね、チームの初動を作る役なんだよ。観察と非薬物ケアとコミュニケーション。この3軸で、どんなルールの戦いでも最大限活躍できるんだよ!
① 観察と層別化
先生:
まず観察。医師にコールするとき、この5つを整理してみて! いつから、どんなパターン、睡眠・食事への影響、最近の処方変更、既往(GERD・脳血管・がん種)。これがあるかないかで、医師の薬剤選択の質はぜんぜん変わる。
ナースちゃん:
あ、そうか。「しゃっくり止まらないんで何とかしてください」じゃなくて、「3日続いてて、夜間に増えて、睡眠が削られてて、先週ステロイド開始してます」って言えば、医師の頭の中で原因疾患の地図が描けるってことですね。
先生:
そう。観察情報は医師の治療選択を支える。そしてここは他の職種と比較しても、ナースが圧倒的に強いところなんだよね!
② 非薬物ケア
先生:
次に非薬物ケア。成人の難治性しゃっくりへの非薬物介入は、エビデンスとしては症例集積や小規模研究レベルが中心なんだ。だから「効くかもしれない」けれど、「効かなくても害は少ない」っていう前提で、複数を組み合わせて使う。
【難治性しゃっくり】ナースの非薬物ケア 6つの引き出し
(タップして拡大↑)
ナースちゃん:
さっきの裏ワザ袋よりだいぶ医学的で、病棟でも使いやすそうですね。でも、これ並べただけだとただのカタログなんですよね。順番とか、どう選ぶんですか?
先生:
便宜的にだけど、3階層で整理してみよう。①身体を整える(体位・呼吸)で横隔膜の負担を減らす。②反射弓に刺激を入れる(冷罨法・温罨法・口腔ケア)でリセットを狙う。冷と温はまず冷で刺激を狙って、不快感が強そうなら温に切り替てみて。③環境を整えるで不安や興奮を減らす。患者さんの反応を見ながらね。なお、口腔ケアを②に置いたのは、咽頭刺激が迷走神経経路に作用するから。実は乾燥対策で、逆流誘発因子を減らす効果も兼ねてるんだ。
③ コミュニケーション
先生:
3つ目は患者さんやご家族とのコミュニケーション。ここがいちばん大事かもしれない。主治医が病状説明をしたあと、患者さんやご家族はまだ動揺してることが多い。「ついこの間までは、水飲んだら止まったのに」って。そのときナースが、裏ワザで止まらないこと自体、難治性しゃっくりでは珍しくないんですよって伝えて補強してあげる。
ナースちゃん:
医師の言葉を、ナースが現場の温度で翻訳するってことですね。
先生:
あと、ご家族って治療できない無力感を抱えがちだよね。だから「裏ワザを一緒にやり続ける」じゃなくて、観察を一緒にしてもらうのもいい選択肢だね。「症状の変化など、なにか気づいたことがあったら教えてくださいね」って。ご家族の役割を治療者から観察者に置き換えるんだ。
ナースちゃん:
ああ、分かります。「何かしてあげたい」が空回っちゃうと、どんどん辛くなっていくんですよね。治療はできなくても、役割があるって、薬より効く処方かも。
先生:
「治らないのは誰のせいでもない」ってことも、繰り返し言葉にしてあげてね。
薬の話は、医師に任せていい
先生:
ちなみに薬の話。冒頭でナースちゃんが言ってた「コントミンでフラフラ」、あれ起立性低血圧の話だったかもしれないね。コントミン(クロルプロマジン)が出てきたら、錐体外路症状と起立性低血圧を観察してみて。他にバクロフェンとかガバペンチン、メトクロプラミドなんかも使われることがあるよ。投与開始後はしっかり状態の変化を観察して、チームプレイを意識したいね。
ナースちゃん:
あの患者さんのフラフラ、ちゃんと観察対象だったんですね。私、漠然と「仕方ない。どんな薬にも副作用はあるし」としか思ってなかったです。これからはちゃんと報告して、チームの頼れる目玉ちゃんになりますよ!
【参考文献】
1)Cole JA, Plewa MC. Singultus. StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK538225/
2)Chang FY, Lu CL. Hiccup: mystery, nature and treatment. J Neurogastroenterol Motil. 2012;18(2):123-30. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3325297/
3)Engleman EG, Lankton J, Lankton B. Granulated sugar as treatment for hiccups in conscious patients. N Engl J Med. 1971;285(26):1489.
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJM197112232852622
4)Salem MR, Baraka A, Rattenborg CC, Holaday DA. Treatment of hiccups by pharyngeal stimulation in anesthetized and conscious subjects. JAMA. 1967;202(1):126-130. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6072000/
5)Fesmire FM. Termination of intractable hiccups with digital rectal massage. Ann Emerg Med. 1988;17(8):872. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/3395000/
6)Çinpolat R. Nasocardiac reflex-induced resolution of persistent hiccups via intranasal swab stimulation: A case report. Am J Emerg Med. 2025;92:253.e3-253.e4. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40187990/
7)Alvarez J, Anderson JM, Snyder PL, et al. Evaluation of the Forced Inspiratory Suction and Swallow Tool to Stop Hiccups. JAMA Netw Open. 2021;4(6):e2113933. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8214157/
8)Luo X, Xie L, Yang L, et al. Patient-directed behavioral-physical interventions to alleviate acute hiccups associated with chemotherapy: a prospective randomized controlled trial. Support Care Cancer. 2025;33(8):717. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12296986/
9)Ehret CJ, Almodallal Y, Le-Rademacher JG, et al. Hiccups in patients with cancer: a multi-site, single-institution study. BMC Cancer. 2022;22:659. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9202213/
10)Kishi Y, Nakawaga M, Inumaru A, et al. Interventions for Hiccups in Adults: A Scoping Review of Western and Eastern Approaches. Palliat Med Rep. 2025;6(1):171-178. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12040553/
University of Technology Sydney, St Vincent's Hospital Sydney
Visiting Scholar
緩和ケア内科医。自分を見つめなおし、本当は「優しいお医者さん」になりたかったことに気づいて、緩和ケアの世界に飛び込みました。現在はオーストラリア・シドニーで、緩和ケアの質改善や教育に関する研究に携わっています。医療現場の「当たり前」を越えて、皆さんがもう一歩患者さんやご家族に寄り添うためのお手伝いができればと思っています。
X:しくじり緩和ケア医@シドニー
(@StumblePall)
著者が出演したYouTubeチャンネルのご案内
患者対応に差がつく魔法の緩和ケア 第1回スペシャルトーク!
共感ってなに!?
https://www.youtube.com/watch?v=T9MHAgHcGEQ
患者対応に差がつく魔法の緩和ケア 第2回スペシャルトーク!
もう「何もできない」とは言わせない! 口内炎ケアで看護師ができることまとめ
https://www.youtube.com/watch?v=S9XyYA-kK3Y
患者対応に差がつく魔法の緩和ケア 第3回スペシャルトーク!
点滴しないと、寿命が縮まるんじゃないですか!? 終末期における補液の考え方とエビデンスまとめ
https://www.youtube.com/watch?v=zv8mq2vg9OE
