農林大学校に退学届の提出や寮の荷物整理に向かう電車の中でこれまでの学校生活を思い起こしています。友だちからのリクエストで農林大学校内で始めたダンス練習。参加者との温度差で感じたフラストレーションが小学校時代を思い出させます。不登校だったものの医師の助言によって学校を休みたいときに休めるようになり、ゆったりと過ごしていました。ところが、校外学習に参加しなかったことでクラスメイトと経験が共有できないこと、その経験の機会を失ったことに気づいたことで、初めて後悔を感じました。それからは学校に行くこと意識するようになり、自分の将来についても考えははじめたものの、当時、見えていた世界は家と学校とかかりつけの病院でした……

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バカにされてもしょうがない

学校もまともに行けなければ、勉強ができるわけでもない私。

周りが90点を取っているとき、私は75点でした。
テスト返しの時間になると周りの点数が気になります。

何点だった〜?と聞くと、点数をあまり見せたがらないクラスメイト。私と同じくらい?と点数を見せます。すると「そんな点数じゃない!」と言われチラッと見える点数は85点。

なあんだ、私より全然いいじゃん。
私からしたら75点だってまずまずじゃんと思っていましたが、その子にとっては、恥ずかしい点数だったんだろうなと思います。塾に通っている子も多かったですし、その子も通ってる1人でした。


周りが塾に行き始めて、より差が開きました。
外で遊ぶことしかしていなかった私は、なんとなくバカにされていました。しかもまともに学校も行けていないのですから、当たり前の反応だったと思います。そして私も勉強していないのだから、バカにされてもしょうがないと思っていました。

いや、慣れなきゃいけない。私は学校には行けていないし、勉強もできないのだから、バカにされることやこき使われることに慣れなきゃいけないと思っていました。私は学校に行くことや勉強をがんばりたくなかったから、悔しいとか悲しいと か感情が浮かばないようにそっちを努力していました。

看護師ならギリギリなれるかもしれない

将来を考えたとき、医師・薬剤師・看護師のなかでがんばってギリギリなれるのは看護師かなと思いました。

社会的に看護師は認められている仕事。それは小学生の私でもわかりました。こんな私でもがんばって看護師になれたらもうバカにされないかもしれない。

がんばっても届かないかもしれない。でも、努力で環境を変えられるならがんばってみたい。


母から、薬剤師は6年も大学に行くと聞いていたので、なりやすさから看護師を考えていました。

薬剤師になれるのは最短で24歳。当時10歳だった私にとっては遠すぎます。14年後なんてイメージできませんでした。


看護師になるにはどうすればいいのだろうと家にあったパソコンを使って調べることにしました。学校に行っても授業を右から左に聞き流していた私にはローマ字がわかりません。そのためパソコンに文字を打つこともできません。

トイレや部屋などにローマ字表を貼ってもらいましたが、覚え方(暗記の仕方)すらわからなかった私は、覚えることも理解することもできませんでした。そのため一つひとつローマ字表を見ながら文字を打ちました。

「看護師」「なりたい」

一文字打つのにも時間がかかります。

調べていくうちに、看護師のなり方はいくつかあることがわかりました。そのなかで最短なのは5年一貫の看護科のある高校に入ること。そしてその看護科のホームページには国試100%合格の文字が。在学生が全員受かるなんて、入学自体がとても難しいんだろうなと感じました。


看護師は5年一貫の看護高校に行けば20歳でなれるので、10歳だった私にとっては、いまから努力し続ける体力のギリギリの期間だと直感的に思いました。

これから10年間、20歳までがんばり続けられるだろうかと少し怖くなりました。目標を掲げるというのは自分への期待をかけることになるため、同時にそれに対する恐怖心が生まれることも知りました。

では、いま私ができることって何だろう。いきなり勉強しようと思ってもやり方がわかりませんでした。看護師さんってかっこいい、たぶんすごい人たちだから、当たり前に毎日学校に行ける人なんだろうな。

「パチっ」

自分のなかでスイッチが入る音が聞こえました。こう思った日から、毎日学校に行くようになり、看護師になるための壮絶な努力が始まりました。

このとき、学校に行くようになったことによりストレスで階段の登り方がわからなくなることも、必要ないと思っていても何度も手を洗ってしまうことになることも、病的な不安と闘うことも、想像もしていませんでした。


一度決めたことだから後戻りはできない。それは自分を踏ん張らせる力の源でもあり、自分を追い詰んでしまう原因にもなります。限界を超えてがんばることは、成長になるか自分自身を傷つけることになるか、本当に紙一重でした。

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プロフィール:まめこ
5年一貫の看護高校卒業後、林業学校に進学。現在は、病院と皮膚科クリニック のダブルワークをしながら、発達障害を持っていても負担なく働ける方法を模索中。ひなたぼっこが大好きで、天気がいい日はベランダでご飯を食べる。ちょっとした自慢はメリル・ストリープと握手したことがあること。最果タヒ著『君の言い訳は、最高の芸術』が好きな人はソウルメイトだと思ってる。ゴッホとモネが好き。夜中に食べる納豆ごはんは最強。