――最近、病院内でよく聞く「周術期管理」って何でしょうか。周術期とは、手術中とその前後の期間を合わせたもので、周術期管理とは、手術のために入院してくる患者さんに対応するケアのことです。医師や一部の看護師だけではなく、病院全体を巻き込んで大々的に「周術期管理」を行う流れが、いま、巻き起こっています。(讃岐)


このたび、人気書籍『ねころんで読める周術期管理のすべて』(詳しくはこちら)からのスピンアウト企画としてライブ配信セミナーが決定いたしました。

講師の讃岐美智義 先生(呉医療センター・中国がんセンター 中央手術部長・麻酔科科長)、鈴木昭広 先生(自治医科大学附属病院 周術期センター長)に、本セミナーについてお話を伺いました。




編集部:なぜ、いま周術期管理に注目が集まっているのですか?

讃岐:昨今、周術期管理チームというか、だんだん看護師さんたちがドクターの仕事を肩代わりしてくれるような、いわゆる「タスクシフト」が進んでいる中で、今まで私たち、麻酔科医がやってきた周術期管理を看護師さんが担ってくれるようになってきました。

そうしたら、看護師さんが周術期管理をやる方が上手くいくということが私たちの中でもだんだん認識されてきて、そういった経緯で看護師さんに、今入ってもらっています。

そうなると、周術期管理についてももっと看護師さんに知ってもらわないといけない。そういったところを今後教えていきたいなぁと思っているんですけど――どうして注目が集まっているかと言うと、一番大きなポイントは保険点数※がついたからですね。

(※:令和4年度診療報酬改定で「術後疼痛管理チーム加算」「周術期薬剤管理加算」「術後栄養管理実施加算」が加わった。)

編集部:鈴木先生はどうお考えでしょうか?

鈴木:最近、手術自体がすごく低侵襲化で、ロボット手術とかが盛んになってきていますよね。それに反して、患者さん自体はどんどん高齢化が進んできて、日本は世界でも有数の超高齢社会を迎えています。手術っていうのは、解剖学的に臓器を切ったり貼ったりで治すことはできますけども……。手術手技自体は成功したけれども、体力が持たない。そういうことがやっぱり考えられるんです。

その結果、患者本人の体力の問題もあるでしょうし、あるいは周術期に起こった合併症でなかなかすぐ離床ができなくて、ちょっと寝たきりが長引いたら体力が落ちちゃった。そうすると元の生活が取り戻せなくなって、結局、家に帰れない。施設に行っちゃう。そういった「手術をきっかけにして元気がなくなるリスク」がだんだん出てきています。特にフレイル、サルコペニア、ロコモ……そういう筋肉関係のことは、術前からの準備が必要です。それ以外にも、従来から言われている呼吸器リハとか、栄養を充実させるとか、歯の治療をするとか、もう本当に多岐にわたります。

そういう意味では手術を受ける患者さんっていうのは、一世一代の勝負に挑むアスリートと同じで、やっぱり一人で頑張らせられない。アスリート(患者さん)を支えるサポートチームが必要じゃないか――そこで、一人ひとりの患者さんが手術を終えた後に、「私は金メダル取れましたよ」と言えるよう、医療関係の多職種連携チームがサポートをする。そのために周術期管理が今、熱くなっているのかなという気がします。

編集部:とてもよくわかりました。ありがとうございます。今回のセミナーの聴きどころをそれぞれお伺いしてもよろしいでしょうか。

讃岐:今回私からはオペ室ナースに、「手術室からの周術期管理」というテーマでお話しします。

一つは、手術中に看護師さんがしていることが実際にどれほど患者さんに役に立っているのかというのを認識してもらうために、例えばプレウォーミングだとか、術中のときから術後を意識した観察であるとか――。それからWHO手術安全チェックリストをきちんと活用して(患者の安全を守るための重要事項を)取り漏らしのないような形を作っていくというところを講義します。

それからもう一つは、特に若い看護師さんが苦手な術後に申し送るべきポイントですね。術中にあったことを術後に申し送るわけですけど、例えばアルドレートスコア・PONV・シバリング・術後せん妄の因子とかですね。低血圧や低酸素につながる因子などをきちっと整理して申し送れるような、知識と知恵をつけていただきたいと思っています。

編集部:楽しみにしています。鈴木先生はどうでしょうか?

鈴木:僕は、前半では患者さんの状態把握やリスク評価というものがあって、一般にASAのフィジカルステータスやNYHA、ヒュージョーンズ分類とか、そういったものでざっくりと捉えていたと思うんですよね。でも、それだけではなかなか最近難しいんじゃないかということで、どんどんいろんな評価スコアが開発されているんですけど、時間もかかるし、なかなか手術の前の診察でそれをやろうと思っても、手間がかかりすぎて時間ばかりが経っちゃったことがあるので、自分自身、悩みながら――「これがリスク」「これはちょっと安心ですよ」とかっていうのを、どうやったら簡便に振り分けられるか考えながらやっているので、そういったことを皆さんがわかりやすい形で理解できるようになればと思っています。

一番いいのは、将来的にはAIが代用できればいいですね。スコアを入れたら勝手に出てくるとか、写真を見せたらリスクがわかればいいんですけども。そういった皆さんが実務に関わるようなことを少し紹介できればと思います。

あとは、術前の休薬忘れですね。いわゆる「術前ドーピング」。あと術前禁煙とか手術に向けて必要な準備とかも紹介します。もう主治医まかせ、患者まかせじゃダメで、チームでいかに円滑に行うかを考える問題になっています。医師、看護師、それ以外の医療者のみなさんとどのようにやっていくべきか、その中で看護師さんがどんな役割をするべきなのか紹介できればと思います。

編集部:今回、対象を「オペ室ナース」にしています。周術期管理においてオペ室ナースに期待することを教えてください。

讃岐:はい、周術期管理でオペ室ナースに期待することは、手術を知っている看護師さんたちがきちんと術後を把握する。患者さんがどうなっていくかをきちんと見ていくっていうところを期待したい。そうなることによって、手術室看護にも厚みが出てくるし、患者さんのためにもなる、というところですね。

鈴木:看護師さんは周術期の関わりがどんどん増えていると思うんですよね。特定看護師や認定看護師、NP(診療看護師)、周麻酔期看護師とかですね。これはおそらく、皆さんが周術期にどうやって関わっていけばいいのか模索している表れなのかと思うんですよね。

もちろん、そういう資格なしに通常のオペ室ナースも当然同じですけど、その中で何より手術のことを一番よくわかっているのはオペ室ナースですので――そもそもこれまで行っていた術前訪問や術後訪問といった基本の骨組みがしっかりできているので、周術期の知識を増やす、肉付けするというのはすごく簡単だと思うんですね。

少しご自身の知識や経験を増やしてスキルアップをしてもらって、まずはその病院の中にいるあいだの部分からでいいので、シームレスに患者さんの手術の前から手術が終わるまで、どうスムーズに関わるか、そのあたりを一番オペ室ナースにわかってほしいので、ぜひ聴いてもらいたいと思います。

編集部:ありがとうございます。最後に、読者へメッセージをお願いします。

讃岐:書籍『ねころんで読める周術期管理のすべて』のポイントを私たちがかいつまんで説明しますので、ぜひ聞きに来てください! お待ちしています。

鈴木:「周術期管理のすべて」の講義を聴きに来られる時点で、相当一歩先に行く“先進的な志を持った方々”が集まっておられると思いますので、私たちはその期待に応えられるように、入念に準備をして望みます。ぜひ参加して楽しんでいただければと思います。





讃岐美智義
呉医療センター・中国がんセンター 中央手術部長・麻酔科科長

鈴木昭広
自治医科大学附属病院 周術期センター長

申し込み受付は2024年2月1日(木)まで!

プログラム

●はじめに:なぜ、いま周術期管理が熱いのか(10分/讃岐先生・鈴木先生)
●講義①:術前の患者さんの状態把握・リスク評価(20分/鈴木先生)
併存合併症/術前ドーピング/たばことお酒と手術/術前の食事はどうする
●講義②:手術開始前/手術中/手術終了前に気をつけるポイント(20分/讃岐先生)
プレウォーミング/術中患者観察/WHO手術チェックリスト…ほか
●講義③:病棟での術後疼痛管理の実際と看護師さんの注意点(30分/鈴木先生)
基本的な鎮痛管理/IV-PCA/硬膜外麻酔(PCEA)/持続神経ブロック(PNB)
●講義④:術後の患者観察ポイント(30分/讃岐先生)
改変Aldreteスコア/悪心・嘔吐/シバリング/低酸素/低血圧/術後せん妄ほか
●質問:質問コーナー(20分/讃岐先生・鈴木先生)

日時:2月2日(金)19:00~21:10
場所:WEB
受講料:3,000円(税込)



参考図書のご紹介



ねころんで読める周術期管理のすべて

やさしい周術期入門
ねころんで読める周術期管理のすべて
ナースと多職種でおさえる術前・術中・術後のキホン


100分で読める身につく周術期のキホン
ゼロから周術期管理の全体像が「わかる」一冊。新人オペナースはもちろん、診療報酬改定で多職種が周術期にかかわるニーズが高まるなか、周術期にかかわる全職種の必読の知識が満載。楽しい4コマ漫画つきで、100分でパッと読めて日々の業務にすぐに生かせる。

目次


はじめに

【プロローグ】
なぜ、いま周術期管理が熱いのか

【1章】周術期管理のキホン
1.誰にでも起きる「術後3大苦痛」
“いたい”“さむい”“きもちわるい”
2.手術後に不幸になる持病
よくある併存合併症
3.「手術前の健康診断」からのリスク評価
麻酔方法決定、手術後鎮痛計画
4.タバコ・お酒と手術との関係
タバコを吸うと、術後の痛みがより強い!?
5.「術前ドーピング」について考える
薬を飲み続けたせいで、手術が受けられなくなる!?
6.術前の注意点あれこれ
サプリは? ワクチンは?
7.術前の食事はどうする?
手術と栄養管理のカンケイ
8.術後はいつから歩ける? いつから食事できる?
「飲め!食え!動け!」のスパルタ方式!?
9.変わる周術期管理
「まな板の鯉」ではダメ!

【2章】手術と麻酔を知ろう
1.麻酔と手術によって術中には何が起きているのか
手術侵襲が強いとどうなる?
2.麻酔は眠っているだけ?
全身麻酔で起きるコト
3.ABCDEの回復で起きる術後3大苦痛
“いたい”“さむい”“きもちわるい”
4.麻酔科医が行う術中の管理の流れ
麻酔の流れと術後対策
5.術中から術後を考える
術後鎮痛の世界
6.安全に手術を行うための5つの対策
10分でわかる手術安全チェックリストの知識

【3章】周術期管理センターのキホン
1.マラソンと総合デパートと手術
周術期センターの役割って?
2.周術期管理センターの仕事と役割分担
チームの中心は患者さん
3.周術期管理センターと術後疼痛管理
術後疼痛管理チームの申請には何が必要?

【4章】職業別! 周術期の仕事図鑑
・外来における看護師の 術前・術中・術後の仕事
・手術室・病棟における看護師の 術前・術中・術後の仕事
・薬剤師の 術前・術中・術後の仕事
・歯科部門(歯科医・口腔外科医・歯科衛生士・歯科工学技士)の術前・術中・術後の仕事
・理学療法士の術前・術中・術後の仕事
・管理栄養士の術前・術中・術後の仕事
・事務・クラークの 術前・術中・術後の仕事
・臨床工学技士の 術前・術中・術後の仕事
・[各職種の仕事一覧]術前編
・[各職種の仕事一覧]術中編
・[各職種の仕事一覧]術後編

【エピローグ】
・周術期管理はチーム医療
一人ひとりの自覚とチーム意識が大事

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発行:2023年7月
サイズ:A5判 152頁
価格:2,200円(税込)
ISBN:978-4-8404-8188-5