「生物-心理-社会モデル(biopsychosocial model;BPSモデル)」とは、健康と病気について、生物学的(bio)・心理学的(psycho)・社会的(social)要因の相互作用の結果としてとらえる考え方です。BPSモデルを理解することは、「こころとからだ」の連動性の理解につながります。また、多職種連携のヒントにもなりえます。本連載では3回にわたり、心身相関とは何か、BPSモデルを活用することは実臨床にどのような効果をもたらすのかなどを紹介していきます。

2月23日にワークをまじえたセミナーを開催します。心理職をメイン対象としておりますが、多職種連携に携わる方にもぜひ受講いただきたい内容となっております。

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https://cocoro-job.jp/seminar_book/4630/




身体と心のつながり

身体と心のつながりは、私たちの健康や幸福に深い影響を与えます。このつながりを考える上で役に立つ、「心身相関」と「BPS(バイオ・サイコ・ソーシャル/生物心理社会)モデル」という2つの概念を紹介しましょう。

1)心身相関
心身相関とは、身体の状態が心に影響を与え、心の状態も身体に影響を与えるという考え方です。たとえば、心にストレスがかかったり病んだりしたときに、どこか身体の一部が痛んだり、下痢をしたり、めまいがしたりという経験をお持ちではないでしょうか。また、逆も然りです。たとえばがんの診断や治療は自傷のリスクを高めるほど大きな心理的な影響を与えます。

2)BPS(バイオ・サイコ・ソーシャル/生物心理社会)モデル
BPSモデルは心身相関の基本的な概念とも関連し、健康や病気・疾患の理解において、生物学的(バイオ:Bio)、心理的(サイコ:Psycho)、および社会的(ソーシャル:Social)要因の相互作用を強調します。

社会的な要因の相互作用への理解

身体と心は明らかに関係しますが、それだけではなく、社会的な要因の相互作用を理解することも、心身の治療や対人援助の支援で欠かせません。BPSモデルは、1つの要因のみが優位という関係ではなく、また各要因を分離させず、包括的な考え方なのです。

BPSモデルにおけるリスク

書籍『誰もが知っている「緊張」の、誰も知らないアセスメントとアプローチ(通称、緊張本)』の中でも紹介していますが、ナシア・ガミーという精神科医は、BPSモデルにおけるリスクについて重要な洞察を提供しています1)。私はBPSモデルに基づく研修医たちの実践をたくさん見てきましたが、このモデルを実践する際には、確かにいくつかのリスクや落とし穴があります。

そのリスクの1つとして、生物学的な観点がほかの要因よりも優先されてしまうことが挙げられます。このような偏ったアプローチでは、心理的や社会的な要因が見落とされ、患者の状態を包括的に理解することができなくなります。逆もまた同様で、心理を勉強した人は心理的要因ばかりに目が向き、ほかの要因を排除してしまう傾向があります。結果として、適切な支援や治療がうまくいかない可能性があります。介入したいところに介入するのではなく、患者やクライアントにとって意味のある部分や介入が可能な部分に介入する必要があり、治療者にはその柔軟性が求められます。

また、BPSモデルの実践には多面的なアプローチが求められます。ただ単に3つの要因を列挙する(折衷主義)だけでなく、それらの相互作用や影響の複雑さを理解し(でもまたこれが難しい!)、それに基づいて介入や治療を適切に行う必要があります。複雑な関係性を適切に分析することなく、単純化したアプローチを行うことは、患者やクライアントにとって不利益であったり無効であったりします。

バランスの取れたアセスメントとアプローチにはトレーニングが欠かせない

繰り返しになりますが、BPSモデルを最大限に活用するためには、バランスの取れたアセスメントとアプローチが必要です。本質的には多職種によって構成されるチームが必要なのかもしれません。生物学的な観点だけでなく、心理的、社会的な要因を考慮し、全体像を把握し、変化しうる介入点の目星をつけることです。それには継続的な教育やトレーニングが必要であり、専門家や支援者は異なる視点(ほかの専門家の視点)を統合するスキルを磨くことが不可欠です。

そこで、私たちは来年2024年2月にケースワークを通じてBPSモデルについて学べるセミナーを企画しました。今回企画したセミナーは、BPSモデルを活用するために、医師と公認心理師とがディスカッションを通して患者さんを理解し、どんな実践が可能かを検討します。互いの専門性を出し合い、チームとしてどんな役割分担が可能かなど、包括的なアセスメントとアプローチを検討していきます。

参加者の皆さまからの意見やアイデアを組み入れながら、ライブ形式でBPSモデルに基づく病態図を作り上げていきます。その過程で、どのようにしてBPSの情報を利用しているか、心身相関を把握するかなどを学んでいただきたいと思っています。どのような方向に向かうか分からない知のゲームを、一緒に楽しみませんか。


【参考文献】
1)ナシア・ガミー. 現代精神医学のゆくえ:バイオサイコソーシャル折衷主義からの脱却. 山岸洋ほか訳. 東京, みすず書房, 2012, 416p.

【著者】
山根 朗
淀川キリスト教病院 緩和医療内科・ホスピス 医長
関西医科大学附属病院研究医員

申し込み受付は2024年2月22日(木)12時まで!

プログラム

12:30~14:10 ①1コマ:アセスメントのポイント~心理職が知っておくべき身体の現象とその見方~
14:10~14:20 休憩
14:20~16:00 ②2コマ:BPSモデルを作ってみよう *事前のワークを解説します
16:00~16:15 休憩
16:15~17:55 ③3コマ:医学・心理・社会それぞれのアプローチを学ぶ

日時:2月23日(祝・金)12:30~17:55
場所:会場参加(大阪)/オンライン参加(ZOOM)



参考図書のご紹介





BPSモデルで理解する
誰もが知っている「緊張」の、誰も知らないアセスメントとアプローチ
症状、ストレス、対人関係などに悩む人の診かたが変わる


身体と心の「緊張」を読みほぐす!
心の悩みはさまざまな形で身体や感情、対人関係に現れます。その1つが緊張です。緊張という1つの体の反応を中心に、BPSモデルをもとに、人(クライエントなど)の見立て・アセスメント、心理職による具体的なアプローチ法についてまとめました。日々のカウンセリングや援助に役立つ一冊です。

目次


【はじめに】「緊張」を知ることは何につながる?
1 なぜいま「緊張」なの?
2 「緊張」をBPSモデルで考えよう!
3 「緊張」を知るための3つのケース

【第1章】緊張のメカニズム〜そのとき、身体に何が?〜
1 緊張って何?
2 自律神経とホルモン
3 緊張気質の心理社会的背景

【第2章】緊張の現れ〜身体と心と関係性に〜
1 緊張によって生じる身体的影響
2 緊張に伴う認知的・心理的反応
3 関係性における緊張
4 精神疾患からみた緊張

【第3章】緊張のアセスメント〜BPSモデルで仮説を立てる〜
1 ケース1のBPSモデルと仮説
2 ケース2のBPSモデルと仮説
3 ケース3のBPSモデルと仮説

【第4章】緊張に対する治療・アプローチ
1 BPSモデルに基づく治療・アプローチ
2 身体的アプローチ
3 心理学的アプローチ①認知行動療法
4 心理学的アプローチ②子どもの支援(遊戯療法)
5 社会的アプローチ
6 支援者の緊張とセルフアセスメント

【コラム】
①心療内科とは?
②心身一如
③周りの緊張がうつる?
④発達障害と緊張
⑤機能性は「気のせい」?
⑥タテ・ヨコ・ナナメの関係

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発行:2023年6月
サイズ:A5判 216頁
価格:3,630円(税込)
ISBN:978-4-8404-8180-9