このたびオンライン講義『消化器内視鏡ケアが深くなる“現場の勘どころ”』(詳しくはこちら)がリリースされました。経験豊富な看護師が消化器内視鏡ケア・介助に使える知識と、患者の安全・安楽の視点から注意点・介助のコツを解説します。今回は、講師をおつとめいただく武蔵脩平 先生に、本セミナーについてお話を伺いました。




編集部:最初に自己紹介も兼ねて、どんなところで働いているかお伺いしてもいいでしょうか。

武蔵:北海道の真ん中ぐらいにある旭川市に病院はあります。市内では同じぐらいの規模の病院が四つあって、「旭川医科大学」「旭川日赤」「旭川医療センター」と僕がいる「旭川厚生病院」――旭川厚生病院はその中でも消化器内視鏡にちょっと特化している病院です。内視鏡の件数的には、だいたい年間10,000件前後で、今年度はけっこう頑張っているので10,000件超えるんじゃないかなと思っています。

北海道の真ん中にあって、その上の道北地域の中核病院なので、他にも内視鏡をやっている病院はありますけど、困ったときに症例の紹介が来るのは、うちっていう感じですね。

編集部:そうなんですね。では難しい症例も武蔵さんの施設に来ますか?

武蔵:そうですね。だから、他施設から困って回されてきたら、「うちでは治療できなきゃいけない」っていうのは正直あります。

編集部:では、武蔵さんが内視鏡にかかわるようになった経緯を教えてください。

武蔵:僕、ちょっと珍しいんです。一年目、新卒でこの検査部門に入職しています。でも検査部門って、新卒を育てるには難しい部署だと思うんですよね……。

編集部:こういうパターンは少ない?

武蔵:だって看護の「か」の字も知らないような新人に、いきなり「介助につけ」って言ってもできないわけです。そもそも、まず患者さんを見ること――看護の基本のバイタルサインを測ったり、血圧測ったりとか、患者さんの状態を見て「異常なのか」「正常なのか」をアセスメントしたりとか、いろんなところから情報を取らなきゃいけないのに、いきなり何も知らない状態で処置入っても、何もわかんないですよね。

編集部:そうですよね(笑)。

武蔵:やっていることもわかんないし、患者さんの状態も、要はカメラが入っている状態と薬を使って寝ている状態ぐらいしか見ないから……。普通、病棟だったらご飯を食べて生活をしている患者さんとコミュニケーションをとって、「看護の基本」から入っていくと思うんです。

でも、内視鏡室だと最初から検査だから、ずっと喋っていたら治療にならないし、妨げにもなるし……。だからすごく苦労しました。なので、僕の場合はちょっと特殊なんです。



編集部:内視鏡における看護師の役割について、武蔵さんはどう思っていますか?

武蔵:基本的には、患者さんの苦痛が少なく、安全に検査・治療を終えること。患者さんを守るための、なんて言ったらいいですか……“最後の砦”じゃないけど、それをメインとしているのが僕たちです

医師は検査・処置中、内視鏡の「画面」と「病変」にやっぱり集中します。医師も人間なんで、あっちもこっちも同じ感じでは見られないんです。特にテレビとか見るとみんなテレビに集中するじゃないですか。多分どんなにベテランの先生でも、治療に集中すると患者さんに目が行かなくなると思うんです。

なので、僕たち看護師の基本は「患者さんを見ること」です。患者さんのバイタルを見たり、患者さんが安楽に検査できているのか。起きて(意識のある状態で)検査する場合にも、楽に息ができるよう気を配ったりします。声掛け次第で、嘔吐反射が減ったりするんです。だから、そういう立ち位置が看護師の役割なのかなと思っています。

編集部:なるほど。わかりました。では、看護師にとっての内視鏡ケアの難しさ、苦手だなって感じているところはどこにあると思いますか?

武蔵:看護師が苦手としているのは器械ですよね。患者さんを見るよりも、まず器械への苦手意識をもつ人が多いです。かといって、じゃあ器械だけわかればいいのかって言ったら、直接的な介助も看護師がするので、そうでもないんです。ポリープを採ったり、組織を採ったりします。そうしたら、今度は自分の技術が求められます。「スネアを開く・閉じるタイミング」、「先生への物の渡し方」、「渡す角度」とかです。それは自分の技術の問題になってくるので、そこに苦手意識を覚える人もいます。そういったことは、病棟ではやらないからです。

また、病棟の看護師だと医師とマンツーマンで働くことも意外と少ないんですよ。例えば、病棟の“部屋持ち”は自分の部屋の患者さんとは接するけど、その主治医は、そのチームのリーダー看護師に指示は出すけど、“部屋持ち”とは接しないことがあります。そうなると、医師と直接コミュニケーションをとって動くことも少ないので、そういうところが苦手だっていう人は多いと思います

編集部:マンツーマンで働くことが、プレッシャーになりそうです。

武蔵:そうなんです。そこに自分の技術を求められるので……。器械も難しいし、渡すのも苦手だし、あの先生怖い……みたいな。

先生方にとって看護師は自分の右腕だから、そうなると余計にプレッシャーを感じます。基本的に内視鏡って、カメラと画面と患者さんがいたら、医師が二人も三人も基本入らないので(いや、関東は医師が多いから入るのかな……? やっぱり北海道は独特なので、またちょっと価値観が違うかもしれませんが)。そうなると難しいし、看護師は苦手意識を感じると思います。

編集部:今回の講義では、そのあたりを解消できますか?

武蔵:できる、かな? 今回、基本的なところはすべて解説しているので、それぐらいの知識が頭に入っていれば戸惑うことはないはずです

あとは先生によっても、いろいろ癖もあれば、考え方も違うので、看護師にどこまで任せてくれるかにもよります。あとは信頼関係になりそうです。

編集部:信頼されるにはそういう知識も必要ですよね?

武蔵:そうです。まずはものを知らないと。なので、基礎的なところはすべて講義で話したと思います。

編集部:ありがとうございます。あとは現場で先生との「あうんの呼吸」を学んでいかないといけない?

武蔵:はい。結局、それを伝えるのが難しいんですよね。

例えば、生検組織を採ってくるときのカップを開くスピードとか。要するに、基本的にはゆっくり閉じていきたいわけです。しっかり噛みたいから。でも、患者さんの呼吸が早くて、画面が動いていて、このピンポイントで採りたいときに、ゆっくりやっていたらタイミングを逃すじゃないですか。

教科書には「ゆっくり」って書いてあるけど、それでは通用しないんです。タイミングを合わせてバッと掴まなきゃいけないこともあります。そこが本当に難しいんですよ。それは状況によって刻一刻、変わるんです。それが一番難しいと思います

編集部:なるほど。でもそれができたら「やりがい」になる?

武蔵:もちろんそうです。今こういう状況で、先生はこの位置を噛みたいから、そこを狙ってるんだなっていうのがわかれば、面白くなるでしょう。あと、あくまでも看護師は医師の指示のもと動く職種なので、何でもかんでも勝手にという話にはならないですけど、医師とコミュニケーションがとれれば「合わせて噛んでもいいですか」とか聞けますよね。そのあたりは医師とのコミュニケーションが大事になるかなと思います

編集部:なるほど。わかりました。ちょっと話は変わるんですが、講義の最後のところで「医師と戦うための知識」っていう少しドキッとする表現をされていたんですけど、そこに込められた意味を詳しくお伺いできますか? 誤解されてもいけないので。

武蔵:はい。先ほどから「患者さんを守る」って言っているんですけど、僕たち看護師がやっぱり患者さんに一番近い存在じゃないといけないと思うんです。内視鏡ってチームで、今は医師と看護師と臨床工学技士が入って三職種とか、あとは臨床検査技師が入って四職種とかでやっているところが多いですよね。その中でも多分、僕たち看護師が一番患者さんに近くないといけないと思うんです

どういうことかというと、治療としては今ここでこうしなきゃいけないけど、患者さんがすごいお腹を痛がっているってなったとします。そのとき、治療を一回止めてもらって鎮痛剤や鎮静剤を使うっていう相談をするためには、「画面」の内容がわからないと言えないですよね。

今はちょっと辛くても患者さんに頑張ってもらわなきゃいけない場面なのか、今だったらちょっと一旦間を空けられるのかとか。それって治療のこととか、いろいろ詳しくないと、やっぱり医師に意見はできないんですよね。

看護師が治療中に患者さん側に立てば、医師との意見の相違が生まれることは絶対にあるはずなんです。そのときに、看護師が何でもかんでも患者さん側に立って「患者さんがこうしたいって言っているから、こうしてください」って言ったって、それじゃあ通用しないです。治療するため、検査するために来ているから。

極端なことを言ったら、治療中に患者さんが「おしっこをしたい」って訴えたとします。基本的に内視鏡の治療って、時間が長くないから尿道カテーテルを入れないことが多いと思います。じゃあ今この場面ではおしっこできるのでしょうか? それとも今はちょっと我慢してもらったほうがいいのでしょうか? それって、「ここだけ組織を切れれば、あとは時間がいくらでもとれる」とか、そういうことを知らないと、やっぱり医師に言えないですよね。

なので、そこは患者さんのために、僕は医師とディスカッションをしていいと思うんです。それで、ディスカッションした結果、「そうだね」ってなることもあれば、「いやそれはね」となることもあるわけです。 ただ、それが知識をもった看護師が言うときと、何も知らない看護師が言うときとでは、やっぱり医師の受け取り方も違うし、ディスカッションの質も変わってくるじゃないですか。

編集部:そうですね。そもそも、知識がないとディスカッションできないかもしれないです。

武蔵:そうです。なので僕は基本的に、患者さんのためには、医師とはどんどん戦っていいと思っています。その、表現がまぁちょっとあれなんですけど(笑)。

編集部:なるほど。わかりました。そういう意味合いを込めて「戦う」ということですね。最後に読者にメッセージをお願いします。

武蔵:対象は、どちらかというと、これから内視鏡を始める人の方が合っているかもしれないです。

病棟で何年も働いていると、内視鏡室ってまったく未知の世界なので、そういう人に見てもらえると「内視教室ってこういう仕事をするんだな」って伝わるかと思います。あと、こういうことを勉強すればいいのかなっていうのも掴んでいただけるかと思います

異動して困っている人は絶対にいるはずです。人間関係ができていないと、周りの人にもなかなか教えてもらいづらいし、本だけだとなかなか頭に入ってこないというのもあると思うので、そういう人に見てもらえればいいかなと思います。

武蔵脩平
JA北海道厚生連 旭川厚生病院
中央検査部門 内視鏡センター看護師
消化器内視鏡技師





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『おなじ看護師目線で解説!消化器内視鏡ケアが深くなる“現場の勘どころ”』

▼プログラム


1 内視鏡に必要な基礎知識(20分)
①解剖生理
 胃/食道/小腸/大腸
②薬剤・前処置
 局所麻酔薬/消泡剤、粘液除去剤/鎮痙剤/腸管洗浄剤

2 内視鏡に必要な基礎知識(21分)
③機器取り扱い
 スコープ/ユニバーサルコードの接続/検査終了後
④洗浄・消毒
 ベッドサイド洗浄/洗浄室での用手洗浄/洗浄機/高水準消毒

3 内視鏡検査の介助のポイント(16分)
①色素散布
 コントラスト法/反応法/染色法/色素散布の際に散布チューブを使用する場合
②生検

4 内視鏡処置の介助のポイント(13分)
①止血処置
 出血/クリップ/止血鉗子/APC/高張ナトリウム・エピネフリン局注
 介助のポイント クリップ編

5 内視鏡処置の介助のポイント(38分)
②ポリペクトミー・EMR
 まず押さえておきたいこと/術者とのコミュニケーション
 出血時・穿孔時の対応を準備/シースの受け渡し、鉗子口への挿入
 スネアリング・切除/コールドスネアポリペクトミー(CSP)
 シースが寄れて切除できない/クリップの特徴と使い分け
 病変サイズに応じた回収方法/速やかに検体を処理

6 内視鏡処置の介助のポイント(8分)
③その他のポリープ切除
 ハイブリッドEMR/Under Water EMR
 留置スネアを用いたポリペクトミー

7 内視鏡処置の介助のポイント(23分)
ESD…デバイスの種類と特徴
④胃ESD
 適応の原則/用語を整理しよう/【動画供覧】/主な合併症

8 内視鏡処置の介助のポイント(8分)
⑤食道ESD
 適応の原則/用語を整理しよう/【動画供覧】

9 内視鏡処置の介助のポイント(10分)
⑥大腸ESD
 適応の原則/pitpattern分類/JNET分類/【動画供覧】

10 内視鏡処置の介助のポイント(15分)
⑦胃ESD LECS
⑧ESD合併症
 穿孔/出血/狭窄/【動画供覧】
⑨異物除去
 適応/アニサキス症/義歯、PTP包装の誤飲/食物残渣の嵌頓

11 内視鏡看護のポイント(18分)
①上部消化管内視鏡検査の看護
②下部消化管内視鏡検査の看護
講義のまとめ

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