国立成育医療研究センター小児外科系専門診療部 統括部長
病態
小児の肘周辺骨折のなかで約60%を占めるのは、上腕骨顆部の骨折です【図1】。2~13歳くらい(6~7歳が最多)にみられ、ほとんどは転倒や転落時に肘を伸ばした状態のまま手をつくことで受傷します(伸展型骨折)1)。右側よりも左側が多く、しばしば神経損傷などの合併症をともないます。
骨癒合しても内反肘変形を遺残することがあります。血管が損傷されるとフォルクマン拘縮による手指の機能障害を後遺するため注意が必要です。
まれに肘を曲げた状態で転倒し、肘をついて起こる骨折もあります(屈曲型骨折)。
【図1】左肘の骨格図
上腕骨顆上骨折では}内で骨折が起こる。粉砕骨折では細かい骨片を認めることがある。
診断・検査方法
診断
受傷機転と疼痛の部位から肘周辺の外傷であることがわかれば単純X 線撮影を行い、肘の正面像と側面像から診断します。
上腕骨顆部の中枢側で骨折しているものが上腕骨顆上骨折です。一方、顆部の遠位・関節側の骨折は上腕骨遠位骨端離開とよばれます。骨と軟骨の境界がX 線像でも見づらいため、診断と治療に難渋することがあります。
伸展型骨折では、骨折しているがずれていないもの(1型)、骨折部の遠位骨片が後方に曲がり変形しているが骨同士が接触しているもの(2型)、骨折部が離れているもの(3型)に分けられます(ガートランド分類)2)。また、骨折部が粉砕していることもあります。
神経麻痺・血管損傷などの確認
神経麻痺の合併が多いため、正中神経(手指の屈曲や母指IP関節の屈曲をみる)、橈骨神経(手指のMP関節の伸展をみる)、尺骨神経(小指や環指の完全伸展をみる)の支配する運動や知覚を観察します。幼児では検査に協力してもらえないこともありますが、「グーパーできますか」と問いかけて母指や手指の屈伸運動から判断します。
血管損傷を合併することがあり、指先の色調・退色反応を確認します。
骨折時に中枢側の骨片の角が皮膚を突き破ることがあるので(開放骨折)、皮膚の損傷を観察します。
手首を同時に骨折していることもあるので、上肢全体を観察して、変形や痛みを訴える場合はその部位のX 線検査も必要です。
治療
手指の障害につながるフォルクマン拘縮を防ぐことが重要です。治療を始める前にまず、手指の神経麻痺や色調、橈骨動脈の拍動を観察します。骨折の治療は骨折型に応じて計画を立てます。
1型
1型では骨折部にずれがないために受傷機転や痛がり方から判断することがあります。X線側面像で骨膜下の血腫が脂肪を後方へ押し出すサインを観察します(posterior fat pad sign、【図2】)。整復操作は不要で、肘関節を90°に屈曲してギプス・シーネ固定を行います。上腕骨近位端から手までを3~5週間くらい固定します。
【図2】骨折部にずれのない1型骨折
a:単純X線左肘正面像。骨折線は判然としない。
b:単純X線左肘側面像。骨折線ははっきりとしないが黒い透亮像(➡)が後方に張り出している。この図は骨膜下血腫に押し上げられた脂肪像を示す。肘関節内骨折で血液が関節内に貯留したときにも脂肪の後方への張り出しを認める(posterior fat pad sign)。
2型
2型では鎮静・局所麻酔下に徒手整復してギプス・シーネ固定を行うか、全身麻酔下に整復して鋼線刺入固定後にギプス・シーネ固定を行います。
上腕骨顆部の内側に縦長の第3骨片など、粉砕している像を認めたときは、整復後に外固定をしていても内反変形をきたすことがあるため、鋼線刺入固定を選択します。鋼線は外側遠位から内側近位に向けて末広がりに2本刺入するか、肘内側に切開を追加して尺骨神経をよけて3本目を遠位内側から近位外側に向けて刺入します【図3】。
【図3】骨折部で骨片の接触している2型骨折
a:受傷後左肘正面像。骨折部でたわんでいる様子がわかる。内側上顆稜に転位のある第3骨片を認める。
b:受傷後左肘側面像。骨折部の遠位が後方に移動している。
c:整復固定後正面像。内側上顆稜の第3骨片はわずかな転位を残すが関節の形態と骨軸は整復されている。
d:整復固定後側面像。関節形態と骨軸が整復できている。
3型
3型では、折れた骨片の角が皮下組織に引っかかり、皮膚の表面に陥凹部を認めることがあります(パッカーサイン、【図4】)。神経麻痺や動脈の拍動、指先部の色調を注意深く観察します。遠位骨片が後内側に移動していれば橈骨神経、後外側に移動していれば正中神経や上腕動脈の損傷に注意します。治療は全身麻酔下に神経や血管が骨片間に陥入しないように注意して整復します。
【図4】受傷後の肘前方の皮膚
a:左肘前方に横長の陥凹部を、その周囲には皮下出血を認める。
b:皮膚陥凹部の拡大像(パッカーサイン)。
徒手整復が困難な場合は、肘の前方を切開して筋や神経・血管が骨片間に挟まれないよう注意しながら整復します。整復して鋼線を2~3本刺入して骨片間を固定します。
さらにギプス・シーネを装着します【図5】。4~6週間は外固定が必要です。外固定除去後は肘関節の屈伸練習を行います。手術操作で神経や血管が骨折部に嵌頓したり、尺骨神経を鋼線刺入時に損傷したりすることがあるため、術直後の観察も重要です。手指の色調や運動を確認します。
【図5】骨折部が離れている3型骨折
a:受傷後左肘正面像。上腕骨と遠位部がずれて離れている。
b:受傷後左肘側面像。上腕骨の近位骨片が前方皮膚の方向に移動して遠位骨片は後方にある。
c:術中正面像。整復されて鋼線が刺入されている。
d:術中側面像。鋼線3本が内外側から刺入されて骨片が整復・固定されている。
e:術後正面像。すでに抜釘されている。骨軸正面像が正常となっている。
f:術後側面像。骨軸側面像が正常となっている。
予後のポイント
外固定終了後は肘の屈伸練習を行いますが、屈伸方向の制限の多くは骨の成長とともに自家矯正されて問題がなくなります。
神経麻痺は不全麻痺であれば数カ月の経過観察で改善しますが、改善しなければ神経剥離を行います。
変形治癒として、受傷時の内反・伸展・内旋方向の変形が残ることで内反肘(肘内反変形)を認めることがあります【図6】。内反肘により上腕骨外側顆骨折や遅発性尺骨神経麻痺、後外側回旋不安定症が発生しやすくなることがあります。
まずは肘の屈伸可動域を改善するためのリハビリを指導して、運動制限を解除したら内反変形の矯正骨切り術を計画します3)。ごく軽度の変形ではそのままでも問題ありません。
また、まれに顆上骨折が治癒した数年後から顆部骨化核の無腐性壊死を生じることがあります4)。二次的な関節内の骨折を防ぐために、運動制限をしながら肘関節の成長を待ちます。
【図6】内反肘に対する矯正骨切り術
a:右内反肘正面像。6歳で受傷したあと他院で保存治療を行ったが、内反肘となった。8歳初診時で内反20°を呈している。
b:右肘術中正面像。9歳で矯正骨切りを行い、刺入用鋼線4本と締結用軟鋼線で固定されている。
c:右肘抜釘後正面像。右と同じ外反10°の生理的外反となり、矯正された。
<引用・参考文献>
2)Alton,T.et al.Classifications in brief:The Gartland cassification of supracondylar humerus fractures.Clin Orthop Relat Res.2015,473(2),738-41.
3)Takagi,T.et al.Modified step-cut osteotomy for correction of post-traumatic cubitus varus deformity:a report of 19 cases.J Pediatr Orthop B.25(5),2016,424-8.
4) 山中一良ほか.上腕骨頼上骨折後に発生した上腕骨滑車無腐性壊死の1 例.日本肘関節学会雑誌.2001,8,99-100.
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