はじめに:「あれもこれも」の焦りが生んだ、利用者さんからの「拒否」

みなさんこんにちは。

看護師の皆さん、毎日の業務お疲れ様です。日々の勤務のなかで「時間内にあれもこれも終わらせないと!」と焦ってしまうことはありませんか? 「勤務時間内に清拭も足浴も終わらせて、バイタルも測って、記録も書いて……」。そんなふうに、頭のなかでタスクのチェックリストを消化することに必死になっている時期が、誰しもあるものです。

しかし、その「よかれと思ってがんばる焦り」が、ときに利用者さんとの距離を遠ざけてしまうことがあります。

今回ご紹介するのは、うちの事業所で実際にあった、ある利用者さんの事例です。その方は、ケアを一生懸命に届けようとする看護師の熱意、焦りに圧倒され、最終的にすべてのケアを強く「拒否」されるようになってしまいました。

なぜ拒否につながったのか?「看護師の都合」と「利用者さんのペース」

その看護師は、決してサボろうとしていたわけではありません。むしろ、「時間内にきれいにしてあげたい」「足浴でリラックスしてもらいたい」という、強い看護魂を持っていました。

しかし、そのときの彼女の視線は「利用者さん」ではなく「時間とタスク」に向いていたのです。

 • 「今、足浴をやっておかないと後ろのスケジュールが詰まる」
 • 「清拭を断られたら、ほかのスタッフに『なんでやれなかったの?』と言われるかもしれない」

こうした看護師側の焦りや都合は、言葉にしなくても利用者さんに敏感に伝わります。精神科の利用者さんにとって、自分のペースを無視してグイグイと迫ってくる看護師の存在は安心できるものではなく、「侵入的で怖いもの」に映ってしまったのです。結果として、自分を守るための「拒否」という行動につながっていきました。

スタッフ会議での決断:関係修復のための「あえてなにもしない」

この状況を受けて、私たちはスタッフ会議を開きました。「どうすれば清拭を受け入れてもらえるか」というテクニックの議論ではありません。私たちが話し合ったのは、「一度、すべてのケアの目的を『関係の再構築』に絞ろう」ということでした。

そこでチームとして徹底することにしたのが、「あえてなにもしない。ただそばにいて、お話を聞く」というかかわり方です。

スケジュールどおりに足浴をすることよりも、まずは「この看護師は自分をコントロールしようとしない、安全な人だ」と利用者さんに心から安心してもらうことを最優先にしました。

最初は、その看護師も戸惑っていました。「本当になにもしなくていいのだろうか」「怒られるのではないか」と不安そうでした。しかし、チーム全体で「それでいいんだよ」「今はそれがいちばん大事な看護だよ」と声をかけ合い、徹底して「ただそばにいる時間」をつくりました。

すると、少しずつ変化が現れました。 最初は顔を背けていた利用者さんが、ただ隣に座って他愛のない話を聞いているうちに、「昔はここで遊んだ」「バイクや車が好きでさ」とご自身の思いをポツリポツリと話してくれるようになったのです。心の扉が、ゆっくりと開き始めた瞬間でした。

新人看護師の皆さんへ伝えたいこと

精神科看護において、「なにもしない」ということは、決して手抜きではありません。立派な看護介入の選択肢のひとつです。

「ケアを予定どおりにこなす看護師」よりも、「自分の今の気持ちをわかってくれる看護師」のほうが、利用者さんにとってははるかに信頼できる存在になります。焦って100点のケアを詰め込むよりも、まずは安心できる関係という「土台」をいっしょにつくっていきましょう。

【まとめ】焦りを手放し、関係を再構築するためのステップ

後半のまとめとして、今回の事例から学べるポイントを箇条書きで整理しました。日々のかかわりに迷ったとき、振り返りのツールとして活用してください。

1. なぜ、看護師の焦りが拒否を生むのかを知る

 • タスク優先の視線: 「時間内に終わらせたい」という看護師側の都合は、利用者さんに圧迫感を与えてしまう。
 • 安心感の欠如: 自分のペースを無視されたと感じると、利用者さんは自己防衛のために「拒否」という手段をとる。

2. 関係を再構築するための「あえてなにもしない」実践

 • 「すること」から「いること」へ: 清拭や足浴などの物理的なケアをいったん脇に置き、「ただそばにいる」時間を確保する。
 • 評価やコントロールを手放す: 利用者さんの行動を変えようとせず、今のご本人の状態や言葉をそのまま受け止める。
 • 話を聴くことに集中する: 看護師側から提案するのをやめ、利用者さんが話し出すタイミングや、沈黙の時間を大切にする。

3. チームでケアの方向性を一貫させる

 • スタッフ会議での共有:1人のスタッフだけでなく、病棟全体で「今はケアをしない時期」という方針を徹底し、利用者さんに一貫した安心感を提供する。
 • 新人ナースの不安をフォロー: 「なにもしない不安」を抱える新人に対し、チームが「それで大丈夫」と承認し、孤立させない。

4. 看護のゴールを柔軟に再設定する

 • 「予定どおりのケア=100点」ではない: 精神科看護の土台は信頼関係。ときには「ケアができなかったけれど、笑顔で話せた」ことを、その日の最大の成果として評価する。

今日も読んでいただきありがとうございました。つい、介入を焦ってしまいますが、長い目でも見ていきたいですね。ではまた。





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
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