精神科看護の現場に必要なのは、「正しい正論」よりも……

精神科訪問看護の現場は、ときに言葉にできないほどの重い空気に包まれることがあります。利用者さんの深い生きづらさ、ご家族の介護疲れ、そして「なんとか力になりたい」と焦る自分自身の張り詰めた気持ち。そんなとき、私たちはつい、真面目一徹な「正しい正論」でその場を乗り切ろうとしがちです。

しかし、心がガチガチに固まっているときに正論をぶつけても、相手の心には響きません。むしろ、お互いをさらに追い詰めてしまうことさえあります。そんなときに、凍りついた空気を一瞬で溶かし、かかわるすべての人を救ってくれるものがあります。それが「ユーモア」です。

ユーモアは「あなたを問題として見ていない」のサイン

新人の皆さんは、「医療の現場で笑いを取るなんて不謹慎ではないか」と思うかもしれません。もちろん、相手の苦しみを茶化すような笑いは言語道断です。

ここでいうユーモアとは、お互いの「看護師」「患者」というガチガチの役割の鎧を脱ぎ、同じ時代を生きる「ただの人間」としてクスッと笑い合えるような、温かい“間”のことです。

たとえば、生活の失敗や、ちょっとしたお互いの言い間違い。それを「たいへんな問題だ!」と深刻にアセスメントするのではなく、「あら、やっちゃいましたね! 私もよくありますよ!」とユーモアを交えて笑い飛ばしてみる。

その瞬間、利用者さんは「あ、自分はダメな人間じゃないんだ」「これがあっても大丈夫なんだ」と、深い安心感を得ることができます。ユーモアは、「私はあなたを問題の塊として見ていませんよ」という、なによりのメッセージになるのです。

がんばりすぎる「自分自身」を救うために

ユーモアは、利用者さんだけでなく、なにより支援者であるあなた自身の心を救います。 訪問看護は一対一の濃密なかかわりだからこそ、新人の皆さんは「完璧にやらなきゃ」「自分がこの人をどうにかしなきゃ」と、肩に力が入りすぎてしまうでしょう。

そんなとき、自分自身の不器用さや、うまくいかなかった空回りを「まぁ、こういう日もありますよね」と笑える心の余裕を持ってほしいです。

ユーモアは、深刻さと深刻さの間に挟む柔らかいクッションのようなものだと思います。

これがあるから、私たちは利用者さんの重い背景を背負い込みすぎず、健康的なプロフェッショナルとして、長く伴走を続けることができるのです。

同じ時代を生きる仲間として、ともに笑う幸せ

訪問看護の玄関を開けるとき、私たちが持っていくべきいちばんの道具は、立派な看護技術の知識だけではありません。目の前の人と同じ時代をともに生きる人間として、日常の小さなおかしさをおもしろがれる、しなやかな心です。

「今日も、いろいろあるけど、まぁ笑っちゃいましょう!」

そうやって利用者さんと顔を見合わせて笑い合えたときは、どんな高度な指導よりも、その人のリカバリー回復を強く後押しします。

新人さんへ:明日、ちいさな「クスッ」を見つけてみて

最初は上手な冗談を言う必要なんてまったくありません。沈黙が流れたら「静かですねぇ」とほほえんでみる。予定どおりにいかなかったら「作戦変更ですね!」と楽しんでみる。その小さなユーモアが、あなたと利用者さんの間に、心地よい風を通す窓になります。

真面目なあなたが、ふっと力を抜いて目の前の人と笑い合える瞬間。それこそが、あなた自身と利用者さんの両方を救う、最高の支援です。

【まとめ】


〇ユーモアが自分自身、利用者さんを救うことになる。

〇力を抜いて同じ時代を生きる人間としてかかわっていく。

今日も読んでいただきありがとうございました。





社本昌美
訪問看護ステーションふく・ふく代表・管理者/精神科認定看護師
精神科看護に長年魅了されています。地域で水が流れるように精神科看護を浸透させたい!そんな思いで2023年8月に訪問看護事業所を立ち上げました。 訪問看護につながる手前の方にも、よくお話をしに伺います。人生をどのように過ごしたいか、希望はなにか?そんなことを会話のなかから探り、ストレングスの視点でかかわることが大好きです。精神科看護に魅了され、わくわく働ける看護師を多く育成したいと思っています。
時間があると登山をしながら日本中を旅しています。四季折々の日本の山々に包まれて至福のときを過ごしています。

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