提供:サントリービバレッジソリューション株式会社
健康経営®の成果を出すための戦略は、企業ごとに異なります。ここで大切になるのが、自社にとって本当に重要なアウトカムを見極め、そこへ向かうストーリーを描くことです。自社ならではの健康経営を進めるためのさまざまなヒントが紹介されたセミナーの様子をレポートします。
健康経営は先手必勝
2026年3月2日、「ストーリーで描く健康経営戦略~アウトカムを飛躍させる鍵~」と題したセミナーが東京・日本橋で開催されました。会場には産業保健師や人事労務担当者などが多数訪れたほか、オンラインでも300人以上が参加し、健康経営に対する関心の大きさをうかがわせました。
冒頭に講演を行ったのは、本セミナーを共催するNPO法人健康経営研究会で理事長を務める岡田邦夫氏です。岡田氏は従業員の健康が企業経営にもたらす影響について多様な事例や研究を紹介したうえで、「健康経営は先手必勝」と述べました。いち早くリスクを感じ取り、問題が顕在化する前に対処するという考え方が健康経営には大切だと言います。
リスクの予兆として岡田氏が例に挙げたのが、就労者数の増加です。岡田氏は、「いま、女性労働者が急速に増えています。女性の心身の特性を考慮した健康管理に取り組んでおかないと、企業は大きな問題に直面することになるでしょう」と警鐘を鳴らします。同様のことは、増加する高齢の労働者にも言えます。さらに、現代の若者は体力が低下しているというデータもあるとのことです。これらの社会情勢の変化をリスクの予兆としてキャッチし、先手必勝の対応が求められると話しました。

ストーリーを作る人が誰よりもおもしろがること
続いて登壇したのは、一橋大学特任教授で企業の競争戦略を専門とする楠木建氏です。楠木氏は本セミナーのテーマである「戦略」と「ストーリー」に関して考えを述べました。
楠木氏は、「戦略とはストーリーです」と言います。戦略を考える際は、自社の課題や目標、強み、市場環境など、さまざまな項目を抽出し、それらを何らかの法則にしたがって並べていくでしょう。このとき、時間軸が入っていることが重要です。
「一見すると同じようなビジネスをしていても、A社は儲かっていてB社は儲かっていないとします。なぜA社だけ儲かるかというと、A社にしかできないことをやっているから。じゃあ、A社にできることって何でしょう?なぜそれはA社にしかできないのでしょう。こんなふうに、『なぜ?』『どうして?』と掘り下げていくと、一本の筋が通ったストーリーができます」
この例のように、時間軸に沿って思考を直列に進め、事実や出来事を順番に並べたのがストーリーです。箇条書きではないのです。楠木氏は、「きちんと筋の通った話なら、『なるほど。それは儲かるよね』となるはずです。だから戦略とは、『普通の儲け話』を考えることでもあるのです」とも話します。
最後に楠木氏は、「ストーリーは未来予想ではありません。成功するかどうかは、やってみないとわかりません」と語りました。そのうえで、次のような言葉で講演を締めくくりました。
「ストーリーを作る人が、誰よりもそのストーリーをおもしろがっている。僕は、これが企業の一番健全な姿だと思っています。『思わず人に話したくなるような話をする』ことこそが、戦略の原点にして頂点です」

現状を分析し、仮説を立てて実行・検証することがストーリー
意思を込めて数字を作りにいく
セミナー後半は、ストーリーを描くことで実りある健康経営に取り組む企業として、サントリーホールディングス株式会社(以下、サントリー)とブラザー工業株式会社(以下、ブラザー工業)から、自社の活動やそれを支える考え方が紹介されました。
最初に登壇したのは、サントリーのグループ健康推進センターで部長を務める蓬莱京子氏です。蓬莱氏は健康推進活動の「回し方」のポイントを説明しました。
往々にして健康推進活動は、施策を行うことが目的化してしまい、「数字は出たとこ勝負」になってしまいがちです。それに対して同社では、「意思を込めて数字を作りにいく」という姿を目指しています。
「まずターゲットは、データを元にして絞り込みます。次にそのターゲットに対して仮説を立て、現場から得られる情報も交えて施策を検討し、意味のある計画値を設定します。意味のある計画値とは、アウトカムの実現につながる値のことです。施策の検討にあたっては、PDCAが回せるようなデータを得られるかも重視しています」
続いて蓬莱氏は、健康推進活動の事例として、運動習慣の促進を目指す「One Suntory Walk」を紹介しました。このイベントに関して同社は、「参加者を増やしたい」「イベントの効果検証が必要」という課題を持っていました。そこで、「参加者数に応じて寄付を行う、社会貢献という側面を訴求することで無関心層を取り込めるかもしれない」「チーム戦やランキングで歩数を向上させられるかもしれない」という仮説を設定しました。これらに基づいて情報発信の強化とランキングの可視化に取り組んだ結果、参加人数は過去最高となりました。効果検証に向けたデータの取得源としては、健康行動の習慣化をサポートするアプリ「サントリープラス」を活用しました。

アプリが習慣化を後押しし、効果の検証にも役立つ
サントリープラスは、さまざまなタスクをクリアすることでポイントがたまり、そのポイントは自動販売機で飲料と交換できるというアプリです。タスクには「朝食を食べる」「1駅分歩く」など、手軽に取り組むことができる健康行動が設定されています。ポイントをため、お得に飲料を入手できることが行動の動機付けとなり、健康行動の習慣化を後押しします。また、アプリユーザーの利用状況は企業などの担当者が管理画面で把握できるため、効果の検証や保健指導に活用することもできます。
「サントリープラスのウォーキングイベント中の平均歩数は、イベントの前月より12%向上しました。さらにイベント翌月も3%の向上を維持できました。これらの変化を把握できたのはアプリのおかげです。イベント当月だけでなくイベント翌月まで歩数の向上が維持できた要因の1つは、『歩くと飲料がもらえる』という、サントリープラスならではのお得感だったと考えています」
サントリーは今、「健康オーナーシップ」の浸透に力を入れています。健康オーナーシップとは、従業員が自分の健康に関心と責任を持ち、主体的に健康習慣に取り組むこと。この目標の実現に向けても、サントリーらしい仮説を立て、楽しみながら取り組んでいきたいと蓬莱氏は語り、講演を締めくくりました。

計画や取り組みには一本筋の通ったストーリーを
一貫性がアウトカムにつながる
企業には会社全体から分野ごと、長期のものから短期のものまで、さまざまな計画や戦略が設けられています。それらが個別に存在するのではなく、「一本筋の通ったストーリーとして描けているかをいつも考えている」と話すのは、ブラザー工業の統括産業医である上原正道氏です。
ブラザー工業の場合、最上位には戦略マップが据えられています。それを受けて策定されているのが、中期計画である「健康ブラザー2025」です。そこから「ブラザーメンタルヘルス計画」「ブラザー生涯健康づくりモデル」「ブラザー両立支援ガイドライン」というテーマごとの5カ年計画へと枝分かれしていきます。さらにメンタルヘルス計画では、「睡眠衛生3カ年計画」「ラインケア・セルフケア教育」など、より個別テーマに絞った計画が設けられています。これらの「川上から川下へ」という流れに一貫性が保たれていること、すなわち場当たり的でなく戦略的であることがブラザー工業流の「ストーリーを描くこと」であり、アウトカムにつなげるためのポイントです。
さらに、個別のテーマや活動においても一貫性が重視されています。上原氏が例として紹介した睡眠衛生への取り組みでは、最初に睡眠不良がもたらす課題を抽出しました。「なぜこの課題を解決しなければいけないのか?」から考え、そのうえで「どうやって解決を図るか」という方法論を検討したそうです。従業員への調査から得られたデータを使って根拠に基づく仮説を設定し、施策の立案を行うことで確かな結果の検証が行えるようになります。

健康習慣は仕組みで整える
ブラザー工業は、健康づくりに関する活動・施策のポイントの1つに「仕組みで整える」を据えています。これは、無意識のうちに健康的な行動を取る環境をつくるという意味です。睡眠衛生に関する取り組みの例では、SharePointサイトを使った記録のほか、年代ごとの課題に沿って、週替わりのミッションに取り組む仕組みを導入しました。結果、不眠の可能性が高いと判定された人がプログラム実施前は62%もいたことに対して、実施後は29%にまで減少しました。30歳代・40歳代の不眠改善率を60%以上にするという事前の目標に対し、76%という結果を得ることができました。
そのほか仕組みを整えることで成果を得た例として、上原氏はサントリープラスの活用例を2つ紹介しました。1つは「禁煙チャレンジ」です。この取り組みでは、アプリをダウンロードした喫煙者に飲料10本分の無料クーポンを提供し、休憩時間の口寂しさ対策として、飲み物を活用することを促しました。また、アプリ内で禁煙タスクにチャレンジできる仕組みを整えました。楽しみながら無理なく続けられるというアプリの特性もあって、26人の参加者のうち約半数が禁煙を維持できました。
ブラザー工業は近年、「ナラティブ(物語)」の力に注目しています。2025年12月には『ブラザー健康経営ストーリーブック』を発行しました。内容は、従業員に対して会社の思いを伝えることが中心になっています。
「健康増進活動の効果などを表す各種のデータは客観的で頭に訴えかけはしますが、それだけで行動につながるとは限りません。心への訴えもまた、行動を喚起するために重要だと考えています」
どんなに優れた制度を整えても、そこに込めた思いが相手に届かなければ、せっかくの制度も本来の力を発揮できません。上原氏の言葉からは、健康経営において、思いを届けることの重要性が示されました。

時代は「健康経営3.0」。一人一人が自分の健康に責任を
セミナーの最後には、4人がそろって壇上に上がり、意見交換を行いました。岡田氏から「取り組みを紹介した2社のポイントは?」と問われた楠木氏は、「サントリーは一番効果のあるターゲット層にフォーカスし、データを取って徹底している」「ブラザー工業は目標から逆算して個別の取り組みを組み立てている。小説と違って、エンディングから読むのが経営です」と、両社の印象的だった点を語りました。
健康経営は結果がなかなか出ないとも言われがちです。「結果が出ないときはどうするのでしょうか?」と岡田氏からたずねられ、蓬莱氏は「仮説を見直します」と、上原氏は「結果が出ない要因を分析するとともに、健康行動を習慣化するための施策を検討します」とそれぞれ回答し、筋道立ててストーリーを描くことの重要さをあらためて強調しました。
最後に岡田氏は、「現在は従業員一人一人が自分の健康を管理していく、『健康経営3.0』の時代です。みなさんの会社でも、従業員のリテラシーを高めて自己保健・自己管理を実現できるようにしていきましょう」と呼びかけてセミナーの幕を閉じました。
(文/編集室)
※「健康経営®」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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