芥川賞受賞作家の朝比奈秋先生は消化器外科・内科での勤務経験があり、オストメイトとのかかわりにかねてより関心をもっていました(本誌2026年2月号インタビュー掲載)。勤務医時代、ストーマ(人工肛門)造設手術にも入る機会があったと話すなかで、患者に対して「つらい思いをさせて申し訳ない」と罪悪感を抱くことも少なくなかったといいます。
オストメイト(ストーマ保有者)は排泄機能が変わることをどのように受け止め、ストーマとどのように共生しているのか——。今回、オストメイト当事者として自身の体験を圧倒的なユーモアを交えて描いた闘病ギャグエッセイ漫画『腸よ鼻よ』(KADOKAWA)の著者である島袋全優先生を招き、オンラインで対談を行いました。
(本対談は2026年1月に収録を行いました)


朝比奈:
島袋さん、はじめまして。朝比奈です。本日はよろしくお願いします。

島袋:
よろしくお願いします。こんなメイクですみません。



朝比奈:
いえ、とっても素敵ですよ。

島袋:
メディアに出るときは大体こんな感じで。デーモン小暮閣下が大好きで、リスペクトも込めて真似していたんですけど、一部のファン層からお叱りを受けたことがあって(笑)。それ以来ちょこちょこメイクを変えつつ、今回は「KISS」風にしています。

重たくない闘病エッセイを

朝比奈:
『腸よ鼻よ』を拝読しまして。

島袋:
うれしいです。ありがとうございます。

朝比奈:
とっても面白くて。全10 巻、1 日で一気に読みました。

島袋:
ほんとですか!? けっこう量ありますからね。ちょっと大変だったと思うんですけど。

朝比奈:
あっという間に読み終わりました。僕、小学生くらいのときに『北斗の拳』のアニメをちょうどTV で観ていた世代なんですよ。なので、時折『腸よ鼻よ』で劇画タッチで描かれるパロディシーンがものすごく面白くて。はじめは真面目な作品として読もうと思っていたんですけど。

島袋:
全然、真面目じゃない(笑)。

朝比奈:
ええ。途中からもう真剣なことは考えずに、ただただ面白く最後まで読んだのが1 回目で。これでは対談にならないと思ってもう1回読んだのですが、やっぱり全てがコミカルで。2 回目も面白く拝読しました。

島袋:
描き手としては狙いどおりですね。闘病エッセイとなると——特に今まで私が読んできた作品だと——重たくなりがちなので、読み手の気持ちが落ち込まないような漫画にしたいと思いながら描きました。笑って楽しく読んでもらえたのなら本望です。

朝比奈:
潰瘍性大腸炎の診断から始まって、難治性の瘻孔だったり、いろいろなことがどんどん進展していくのと同時に、島袋さんの漫画家としての奮闘も加速していきますよね。途中で「やっぱり漫画が負担になっているんじゃないの?」と思いつつも、緊急入院を繰り返しながら描き続けていかれる姿に、ぐいぐい引き込まれました。



島袋:
同じ患者さん目線で感想をもらうことは多いんですけれど、お医者さん目線で見ると「何してんねん!」みたいに映るのかなと思って。ちょっと落ち着けよ、みたいな。当時連載していたデビュー作が一度打ち切りになったときは、やっぱり主治医の先生も言わんとはなしに喜んでいたのは感じたので。「じゃあ、これからは治療に専念できるね」っていう感じで。

朝比奈:
たしかに、医師からするとそうかもしれないですね。僕も全体的には面白おかしく読みながらも、かつて消化器内科で島袋さんと同じ腸の病気を抱えた患者さんを診ていた身としては、実際はもっと大変だったんだろうなと勝手に想像してしまいました。本当に痛いときって、やはりその声が医師側にも染みてくるものなんです。でも『腸よ鼻よ』では、怒りも悲しみも痛みを感じている姿さえも、全部ギャグにされていて。それがやっぱり、どうしても笑えてしまうんですよね。その描きっぷりというか、病気の苦しみを完全に漫画として独立させているところに、同じ創作者として「見事だな」と。

痛みから逃れるために描き続けた

朝比奈:
『腸よ鼻よ』で描かれている期間でいうと、闘病生活は9~10 年間ほどですか?

島袋:
期間でいうとそれぐらいになるかと思います。でも正直、今もちょっと続いてはいます。難治性瘻孔が再発したりとか。

朝比奈:
そうなんですね。あのころ——特に人工肛門になった瞬間——を思い出したり、振り返ったりすることは今もありますか?

島袋:
ふとしたときに思い出すことはあります。当時のエピソードを人に話すときは基本的に笑いながら喋っているんですけど、見守ってくれていた身内や家族からしたら、私が面白おかしく話そうが「あのときを思い出すと涙が出そうになる」と言われますね。しんどかったねって。

朝比奈:
その痛みに耐えながらも、主人公の全優は「それでも描くんや」と猛烈なエネルギーを燃やしていましたよね。そういう姿勢は常にあったんですか。

島袋:
そうですね。逆に漫画を描くことが心の支えになっていたので。痛みから意識を逃れさせるための、ある種の現実逃避に近いものがあったのかもしれません。真摯に痛みと向き合っていたら、たぶん心が壊れちゃうと思っていたので。痛みよりも夢中になれる漫画に意識を向けて耐えていた気がしますね。当時は漫画に生かされていたなって。

↓対談の続きは「消化器ナーシング」7月号でお読みいただけます。


消化器ナーシング2026年7月号




朝比奈 秋(あさひな・あき)
1981年京都府生まれ。作家、医師。2021 年『塩の道』で第七回林芙美子文学賞を受賞。ʼ23 年『植物少女』で三島由紀夫賞、『あなたの燃える左手で』で第51回泉鏡花文学賞、第45回野間文芸新人賞、ʼ24年『サンショウウオの四十九日』で第171回芥川龍之介賞を受賞。ほかには人工肛門の女子大生を描いた『私の盲端』や、医師の過労死を描いた『受け手のいない祈り』など。

島袋全優(しまぶくろ・ぜんゆう)
ギャグ漫画家。沖縄県出身。2011年に指定難病・潰瘍性大腸炎に罹患。闘病しながら漫画家としてデビュー。’14年に大腸全摘手術を受けてストーマユーザーになり、閉鎖と再建を繰り返す。’26年現在、12回目の手術をして永久ストーマになった。2017年に闘病ギャグエッセイ漫画『腸よ鼻よ』を連載。’24年よりお腹にやさしい料理エッセイ漫画『腸はなくとも食欲はある!』を連載中。

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↓朝比奈秋 先生のインタビュー記事は以下2誌でお読みいただけます。


消化器ナーシング2026年2月号



Emer-Log(エマログ)2026年2号