ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:SAKINY
高校卒業後は介護の学校に通い介護福祉士の資格を取得、卒業と同時に看護学校へ入学し、看護師となる。救命救急センターがある病院の集中治療室で働き始め、別の病院の救命救急センターの集中治療室での勤務歴がある。新人の頃に勤めていた病院に戻り、現在主任として一般病棟で勤務している。ジェネラリスト、マネジメントの道を極めるために奮闘中。

インタビュアー:白石弓夏
小児科4年、整形外科・泌尿器科・内科系の混合病棟3年、その後、派遣で1年ほどクリニックや施設、ツアーナース、保育園などさまざまなフィールドで勤務。現在は整形外科病棟で非常勤をしながらライターとして活動して5年以上経つ。最近の楽しみは、仕事終わりのお酒と推しとまんが、それと美味しいごはんを食べること。

人のケア、人を支えるっていい職業だな

白石:
本日はよろしくお願いします。SAKINYさんはたしか私と同い年……という認識で合っていますか?今年37歳になるんですが。

SAKINY:
あれ、違いますね(笑)。僕は今年で39歳になります。

白石:
あれれ、勝手に同い年かと思っていました(笑)。

SAKINY:
僕は高校卒業して2年間介護の学校に行って、それから看護学校に入ったので、たぶん看護師歴は同じってことかもしれないです。

白石:
なるほど、同じ第97回看護師国家試験の受験で同い年だと思っていたわけですね!いやはや失礼しました。あらためまして……今、介護の学校に通われていたお話がありましたが、そこからなぜ看護学校に入り直したんですか。

SAKINY:
元々、なりたい職業はありませんでした。それで、将来なにをするかとなったときに、「人のためになることを」と昔から親に言われていたので、姉が看護師で親戚には介護福祉士もいて、とりあえず介護の学校に行ってみるかということで入学したんです。そこで、実習を通して人のケア、人を支えるってすごくいい職業だなと思いながら、もっと医学的な知識や技術を持って人を支えることができればと考えて、介護の学校を卒業してそのまま看護学校に入学しました。介護の国家試験と看護学校の受験を同時にしてなんとか受かったって感じです。

白石:
そんな経緯があったんですね。それからSAKINYさんは主にクリティカル領域で働かれていると思うのですが、これまでのご経歴と病院を移った理由についてお聞きしたいです。

SAKINY:
看護学生のときの話になりますが、救急外来や集中治療室の実習は、もう足が震えるくらいすこぶる緊張していた記憶があります。その場で働く看護師に指導されていると、緊張する反面「自分はこういう人になりたいな」という憧れも同時に抱いていて。超急性期の場で働きたいなと思い、新卒で救命救急センターがある病院に入職しました。そこの集中治療室で働いて数年たったときに、もっとクリティカル領域を極めたいという気持ちが強くなって、救命救急センターのある別の病院の集中治療室に移ったんですね。そこでは集中治療領域の知識や技術だけではなく、管理的な側面などさまざまな経験をさせてもらって、本当に勉強になりました。ある程度、経験させてもらって看護師10年目を前にしてふと自分の身の振り方を考え始めたんですね。

自分はこれから男として、看護師として、どうしたらいいんだろうと。それは直近の5年後だけではなくて、10年後、20年後の自分の未来像みたいなことを考えてみると、ここの場所に居続けるのかどうか、別の場所のクリティカル領域について勉強するのか、一度働いた病院に戻って自分の経験を還元してみるか……と天秤にかけたんです。それで、元の病院に戻ることを選択しました。

白石:
学びを還元できればと、元の病院を選んだ決め手はなんだったんでしょうか。

SAKINY:
これにはいろいろと理由があります。まず戻った病院は僕が生まれ育った地域にあって、一度転職した病院は別の地域にあったんですね。親が近くに住んでいることもあって、生まれ育った地域が好きだし、家族の近くにいたほうがいいだろうということで、戻る選択肢を考えました。そして診療体制や医師も変わるタイミングだったので、また新たに学べることもあるかもしれないなという気持ちもありました。あと、僕は地元の行事も大事にしたいと思っていたので、病院に学びを還元するためだけに戻ったわけではなく、そうしたいろいろな要素も重なって決め手になりました。

その立場にならないと、その人が見ていた景色は見えない

白石:
それから元いた病院に戻られて、実際どんなことを感じられたんでしょうか。

SAKINY:
戻ってきてからも同じく集中治療室に配属になったんですけど、看護師やメディカルスタッフの考え方、症例数などから地域差を感じました。救命救急センターがある病院でも、診療体制や医療スタッフの違いをあらためて実感しました。なので、これまで自分が経験したこと、勉強したことをフルに現場におろしていって、患者さんが良くなるためにはこういうことが大切だよねと周囲をうまく巻き込みながら推し進めていきました。

そして、今の病院に戻ってきて数年経ったあるとき、主任のポストが空いているからどうかと打診されました。昇進することに迷いはありましたが、当時は患者さんをみることはもちろん、スタッフ教育にも興味があって、スペシャリストかマネジメントの道かというのは常に考えていたので、このチャンスは逃さないほうがいいかもしれないと思うようになりました。立ち位置が変わればなにか見えるものも変わるかもしれない、また新たな学びもあるかもしれないという希望もあって話を引き受けました。

白石:
立ち位置が変わればなにか見えるものも変わるかもしれないと、SAKINYさんがそう思えた理由はなんでしょう。

SAKINY:
僕にはこれまで働いてきたところで尊敬する上司がいます。それは、前の病院で働いていたところの師長です。その人は、本当に管理の仕事をしているのかというぐらい、常に現場に立って、なんならガウンを着て一緒に医師の介助に入るぐらいのすごく頭も切れる師長で……。その人に出会うまでは、自分の瞳孔が開くような、心に響くような、憧れを抱くような人ってあまりいなかったんですよね。だから、自分が主任になったら、こういう人になりたい、こういう風にスタッフをサポートしていきたいと思いましたし、それってその立場にならないとその人が見ていた景色は見えないはずで。自分もその景色を見るためにとりあえずやってみて、自分の考える主任像を実践して、人から認めてもらえて、評価してもらえたら、これはよかったことなんだと思えるかなと、そんなことを考えたんです。

白石:
その場に行かないと見えない景色を見に行くって、元の病院に戻ったのもそういう意図があったんじゃないかなと思ったりしました。それで実際主任になって、見えるものは変わったのでしょうか。

SAKINY:
まだまだ新米の主任なので、まだわからないことも多いですが……役職がついていないときに想像していたことと、実際入ってみて感じたことは正直なところミスマッチしていなかったな、よりディープな部分が見えるようになったなという感覚ですね。それでも自分の目で見に行って、感じて、自分はどうするのかみたいなことは常に考え続けています。

たとえば、自分は役職がついたとしても周りより上にあがっているつもりはなくて、あくまでフラットな関係がベストだと思っているので。主任としてのポストによって立場をある程度利用してうまく引き込むとか、そういうことは意識するようにしています。あとは「主任さん」って名前を呼ばれて頼りにしてもらえるのは、純粋にうれしいなと思いますね。

あの人ができているんだから、僕にもできる

白石:
それでは、今回は質問のカードをいくつか準備しているので、こちらから選んでください。

SAKINY:
じゃあ今、手に持ったやつで。

白石:
これですね。「仕事に行きたくないときどうしていますか」です。

SAKINY:
仕事に行きたくないとき……。大きな会議で司会をやらなきゃいけないとか、はじめてのことをやらなきゃいけないときとか、「あ~どうしよう嫌だな、行きたくないな~」と思うことはありますね。ただ、主任になってからは患者さんが待っているから、スタッフが待っているからという気持ちのほうが強くなって、行きたくないより行かなくちゃいけないという使命感で行きたくない気持ちは消されてしまうかもしれないです。だけど、僕はこういうときドラえもんの話にもある「人にできて、きみだけにできないことなんてあるもんか」という言葉を思い出して、「あの人ができているんだから、僕にもできる」と自分に言い聞かせて仕事に行っていますね。

白石:
ドラえもんのセリフでそんなシーンがあるんですね。

SAKINY:
そうなんです。ドラえもんがのび太に対して言ったセリフなんですよね。それをよく思い出します。自分に合っていると思うので、こうやって自分の気持ちを高めていますね。あとは、その後の楽しみを考えますかね。この仕事が終わったらいいビールを買って帰って飲もうとか、これが待っているから頑張るしかないと。まぁ、ビールだけじゃ収まらなくて、夜の街に繰り出して飲みに行かないとダメなときもありますけど(笑)。

白石:
SAKINYさんは多趣味というか、そうした楽しみな時間の使い方も上手なイメージありますね。

SAKINY:
そうですか。でもまぁ、たしかにジムで身体を動かしたり、サイクリングに行ったり。あとは元々相撲や柔道、弓道、水泳などをやってきて、高校の弓道部では主将になって国体選考会に出たこともあったし、アルバイトでは居酒屋で働いていたこともあって、料理をするのも好きですね。中華鍋を振ったり、生簀から魚をとってその場でさばくこともしたり……。

白石:
豪快!想像していたバイトのレベルじゃなかったですね(笑)。

自分がその人の人生を左右することは絶対にあってはならない

白石:
ちょっと話は戻りますけど、仕事に行きたくないってたとえばスタッフがそのようなことを言ってきたとき、SAKINYさんだったらどんな言葉をかけるんでしょうか。

SAKINY:
明日○○があるから行きたくない、人が少ないから行きたくないということはスタッフから声があがることはありますけど、なんて言っているかな……。それでも愚痴っぽく言っている人と、真剣な顔で言っている人とで少し違うかな。見極めているわけではないですけど、愚痴っぽく言っている人にはたとえば「大変だよね」と共感したり、ポジティブになるような声かけを意識したり……。一方で真剣な顔で悩んでいそうであれば、まずは理由をしっかりと聞いて、なにかヒントになるようなことを伝えて、アシストできればいいかなと思っています。そして、またその結果どうだったかを聞きますかね。たとえば、僕だったらこういう風に立ち回るかなとか、こういう風にコントロールするといいかもしれないよと伝えて、そしてその後どうだったかなと、そこで結果うまくいった場合には信頼関係がまた築けていくと思うので。

白石:
結果までどうだったか聞いてくれるというのは、なかなかないかもしれませんね、アドバイスもらうことはあっても。

SAKINY:
そうですよね。常に僕の頭のなかにはPDCAサイクルがあって、そうやって考えていますね。

白石:
もう少し込み入った部分も聞きたいのですが、仕事に行きたくないというその先、たとえば「辞めたいです」とスタッフから言われたときはどうされているんですか。

SAKINY:
基本的には、自分がその人の人生を左右することは絶対にあってはならないと思っているんですね。今の病院を辞めるというのは、その人にとっての人生のプロセスであって、だから、絶対に否定はしないです。自分の考えで「いや、やめたほうがいいよ」ということは絶対にしない。面と向かって個室で話を聞きますね。まずはどんな理由からなのか、これまで働いてきたことで考えていたこと、今の現場で感じていることなど。

また、現在の話だけじゃなくて、今後どうしていくんだろうみたいなビジョンとか、転職する場合には自分の経験も踏まえてこういう風に調べておく、勉強しておくといいかもねとアドバイスすることはあります。あとは大事なスタッフなので、最後までケアをして、後を濁さず辞められるようにその都度支援していきますね。そして、最後までありがとうと感謝の気持ちを持ちながら接しています。

白石:
引き止めたりはしないんですね。

SAKINY:
引き止めないですね。その人の人生なんで。だけど、「惜しい」とは言います。自分の感情はちゃんと伝えます。たしか、なにかの本だったか、誰かの発言だったか、「人の人生は、赤の他人が左右することはできない」みたいな言葉がすごく自分の心に残っていますね。

白石:
「惜しい」とは言う……SAKINYさんは自分の感情の出し方もとても上手ですね。

自分のビジョンを明確に、そのためにできること

白石:
それでは最後の質問です。「あなたが後輩の看護師に伝えたいことはなんですか」

SAKINY:
これは現場では常に言っていることですけど、ビジョンを明確にしたほうがいいという話はよく話していますね。ただ、ビジョンを明確にといっても、なかなか難しいと思うんです。自分はなにがしたいかわからないとか、どうすればいいんだろう……。そうした考えをずっと何年も考えていてもなにも生まれないと思うので。たとえば違う病院に移ってみるとか、フィールドを移ってみるとか、住まいを変えてみて違うところで働いてみるとか。景色が変われば見るもの、見えるもの、考えることも絶対に変わると思うので、そうして自分が行動しないとそもそも自分がなににマッチするのかもわからないと思うんです。自分はひとりの女性として、男性として、看護師としてとか、近い将来・遠い将来どうなりたいのか、今の自分はなにに興味を持っていて、それを実現するにはどうすればいいのか……などと考えながら仕事をすることが大事だよと、よく後輩に伝えていることですね。

もうひとつは、看護師という仕事においては患者さん家族第一であることを常に意識して仕事することです。看護師になった理由は人それぞれあると思うんですけど、看護師という資格をまっとうするという意味で言えば、やっぱり患者さんや家族は切り離せないことなので。ちょっと偉そうな感じにはなってしまいますけど、「それって本当に患者さんのためなのかな」と立ち止まって考えることを忘れないでほしいなと思います。

白石:
SAKINYさんがインタビューの最初のほうで「人のために」ということを母親から言われていたというお話がありましたが、その「人のために」という気持ちを突き動かすものはなんなのでしょうか。

SAKINY:
そうですね、やっぱり母親の影響は大きいですね。「人のためになにか」「人のためになにか手に職を持って働く」ということは、たぶん100万回以上は言われていたと思います。いまだに言われますね。人のためにさらに上にあがって、人のためにまたなにか看護師の資格から派生して、人のために働けと。あとは、学校のキャッチフレーズでもあったんですよね、「人が好き」って。でもたしかに、なるほどと思いまして。人が好きと思えないと、やっぱりケアとかはできないよなと思いながら当時は通っていましたね。

それは看護師になってからもそうで、前にいた病院の理念が患者第一の医療をという考えで、そのなかで働いているベテランの先輩看護師はよく口に出して言っていましたね。人を相手にする職業なので、患者さんや家族はもちろん、周りのスタッフとかそういう人の支援もしていきたいなと、常にその考えはあります。主任になってからは、ちょっと小うるさいかもしれませんけど、「モニター画面とか検査データもたしかに大事、だけどまずは患者さんを見ないとわからないでしょ」というような話はよく言っていますね。

白石:
熱いですね。さまざまなところで、人のためにという考えに触れてきたんですね。SAKINYさんにとっての今後のビジョンはどのようなものなのでしょうか。

SAKINY:
常に根底にあるのは、看護師である自分もそうなんですけど、ひとりの男として、子どもにはかっこいい姿を見せるために働かないといけないなと思っていますね。お父さんが第1職業で、第2職業が看護師というぐらいのイメージでいます。看護師の仕事をないがしろにするわけではなく、ひとりの父親としてかっこよく生きるためには……ということを考えていますね。そのために僕は、いろいろと勉強したり、研修を修了して資格を持ったり、役職についたり、そういうところで自分は多少輝けるのではないかと、自分の立ち位置とかも意識しながら頑張っています。いろいろな刺激を受けながら、いろんな人と接点を持ちながら。

遠い将来のことはそうですね……ドラえもんがいたらいいな、ちょっと将来の自分を覗いてみたいなとは思いますけどね(笑)。とりあえず、家族全員が幸せで健康ならばいいのかなと思ったりしています。

白石:
父として、看護師として……かっこいいっすね!SAKINYさんのまた新しい景色が見られることを楽しみにしています。ありがとうございました!

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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