ここには12枚の『問い』が書かれたカードがあります。
ゲストが、それぞれ選んだカードに書かれた『問い』について、インタビューを通じてゆっくり考えていきます。
カードには何が書かれているか、ゲストにはわかりません。

ここでの『問い』とは、唯一の正しい答えがあるものではなく、思考を深め、さらなる問いを生んだり、生涯にわたって何度も問い直したりするような本質的なもの。
そして、ゲストの考えや価値観、人柄に触れるようなものが含まれています。
簡単に答えは出なくても、こうした考える時間自体に意味があるのかもしれません。
いま、少しだけ立ち止まって、あなたも自分や周りの人に問いかけ、想いを馳せてみませんか。



ゲスト:やの
熊本の阿蘇出身。京都の総合病院でICUと脳外科病棟を経験、合間に他病院の救外や施設、クリニックなどで兼業生活。看護師6年目のときに大阪の脳神経外科の専門病院に転職、SCU配属。認知症ケア専門士を取った後、10年目のときに認知症看護の認定看護師に。現在は週2で総合病院の外来と週3で訪問看護で働き、大学院の老年看護の専門看護師コースに通う。有志で高齢者や認知症、脳や心臓に関する疾患理解や看護ケアについてのセミナー開催など活動中。
分担執筆の『高齢者のアセスメントは解剖生理が9割』(メディカ出版)が2024年3月に発売(詳しくはこちら

インタビュアー:白石弓夏
小児科4年、整形外科・泌尿器科・内科系の混合病棟3年、その後、派遣で1年ほどクリニックや施設、ツアーナース、保育園などさまざまなフィールドで勤務。現在は整形外科病棟で非常勤をしながらライターとして活動して5年以上経つ。最近の楽しみは、仕事終わりのお酒と推しとまんが、それと美味しいごはんを食べること。

脳や認知症、高齢者看護を深めていきたい

白石:
やのさん、はじめまして!この度はメディカ出版さんで書籍の発売もおめでとうございます。

やの:
ありがとうございます。今日は書籍と同じ担当編集者さんもいて、ちょっと変な感じです(笑)。

白石:
(笑)。さっそくなんですが、やのさんは認知症看護認定看護師さんでありながら、現在は老年看護の専門看護師コースに進まれているとのことで、これまでのご経歴について教えてください。

やの:
私は元々熊本の阿蘇という高齢者が多い地域の生まれなんです。地域の高齢者と子どもが一体化して住んでいるような田舎で生まれ育って、最初に就職したのは京都の地域密着型の総合病院でした。そこでICUと脳外科病棟で働き、脳の解剖や疾患、障害についてしっかり理解すると、リハビリや看護ケア次第でぐんぐん変わっていく患者さんを目の当たりにして。脳の勉強が好きだな、奥深いなと思うようになり、看護師6年目のときに大阪にある脳神経外科の専門病院に転職しました。

当時は脳卒中リハビリテーション看護の認定看護師も考えていたんです。ただ、私の印象としては症状や障害というところに目を向けてアプローチしていく領域だと感じて。ご本人の想いや高齢者で認知症のように加齢に伴う変化についても深めたいと思っていた私は、認知症看護認定看護師のほうが合っているかもしれないと思い、認知症看護の教育課程に進みました。それが看護師9年目の頃、2019年の話です。

ところが、認知症看護の教育課程に進んだときに「あ、なんか自分が思ったもんと違う」と思ったんです。なんていうか、認知症だけあって病院に入院してくる人って絶対いないですよね。なにかしら病気があってそれにプラス認知症があるだけなので。それで、私がやりたかったこととは違うかもと思いつつも、とりあえず認知症の勉強を頑張ったんですけど、同時にさてどうしようとも考えて。もっと高齢者全般の勉強をしたらいいのかと、それで今は病院の外来と訪問看護で働きながら大学院で老年看護について学んでいます。

白石:
え、認知症看護の教育課程に進んで、思ったもんと違うっていうのはびっくりですね。しかもICUやクリティカル領域で長らく働いていた人が認知症看護の認定取りに行くのも珍しいかなと思うのですが、実際どうでしたか。

やの:
いやぁ、いないです。ICUで働いていると認知症や高齢者看護は二の次みたいなことを言っているスタッフもけっこういますからね。病気を治してなんぼで、生活者としての視点は持っていないというか。高齢者となると、そもそも治療するのかしないのか、治療したら生活ができるのかできないのか、治療することがすべての最善ではないわけですよ。正直、これだけ高齢者が増えているのに視野が狭いなと思っていました。時代とともに人口や高齢者率も変わってきているので、医療も看護もそこに合わせていかないといけない。だから、ICUでもクリティカル領域であっても高齢者や認知症に関する知識や技術を持っていないと、そもそも生存率や予後も変わってくるだろうし……って、私のなかではすごく疑問に思っていましたね。もうちょっとちゃんとやろうって。それが認知症看護の認定取りに行くきっかけでもあるんですけど。

認知症看護の教育課程で感じた違和感

白石:
ただ、実際教育課程に進んだら思ったもんと違うと。たとえば、授業や実習のどんな場面でそう感じたんですか。

やの:
認知症看護に強い国立系の病院実習に行ったときに、肺炎で入院してきてせん妄状態にあった認知症の方を受け持ったんです。そこで私は、まず認知症のケアの前にその人の症状を軽くしてあげないことには、その人の苦痛が除去できないと思い、排痰ケアからはじめました。そうしたら教員に言われたんです。「あなたはなにをしにこの過程に進んだの」って。認知症看護の教育課程の実習なんだから、認知症をまずはみないといけない、分析しないといけないと。でも、SpO2の値も悪くて息がしにくそうでしんどいと言っているおじいちゃんに、自分が認知症看護の教育課程に進んだからって、認知症をまず見ろというのは、すごくエゴを感じてしまったんです。まずその人がなにをほしてほしいか、症状のどういうところを取り除いてほしいのかということを考えつつ、認知症のアプローチもする両輪で身体のケアをしていく必要があると。

だけど、周りの認定看護師さんの話を聞いていると、やっぱり領域のことしか話せない人が多いなと感じて、違和感がありました。症状があって病気があって入院してくるんだから、認知機能もそうだけど、身体のことも網羅してケアしないといけないと。そもそも入院している理由はなんだっていうことですよね。

白石:
そうした違和感があったんですね。認知症看護の認定を目指される方は、認知症の患者さんをしっかりみられるようになりたいという人が多いからなんでしょうか。

やの:
そうですね。認知症の方の尊厳が無視されている、認知症の理解が進まないままケアしていて……スピーチロックといって「動かないで」「やめて」と言葉で行動を制限する現状に疑問を持っている方が多いと思います。少し極端な話をすれば、「寄り添いましょう」とか「その人の人となりを理解しましょう」というぼんやりとしたことばかり言う人も多いと思います。でもそれって、正直なところ優しい看護師さんだったら誰でもできますよね、と私は思っていて。よく認定看護師さんの相談を受けることもありますが、「認知症の人にこうやってしてほしいのに、してくれないんですよ」みたいな相談もあって。そういうところで、私は別に認知症看護の認定看護師になりたかったわけじゃなかったみたいに思っちゃったんでしょうね。

白石:
なるほど。それでも、やのさんのお名前やプロフィールには認知症看護認定看護師の言葉があるので、最終的には取ってよかったという認識なんでしょうか。

やの:
もちろん、認定看護師になったことで認知症の方の具体的な観察やアセスメント能力が身について、根拠を持ってみられるようになったことはすごくよかったなと思います。お給料もらいながら勉強できた機会には感謝していますね。

病院と地域で働き、視座や視野を広く、後れをとらないように

白石:
やのさんは今、病院の外来と訪問看護で働かれていますが、これはなにか目的があって働く場所を分けているんですか。

やの:
今のところはまず大学院が最優先で。でも病院にも籍を置きたかったので、スケジュールが調整しやすい外来で働きつつ、地域の医療現場をみたくて訪問看護と。2つの側面からみられる看護師になりたいと思ってですね。病院だけしかみてなかったから、地域でどういう風にその人が過ごされているかっていうところの視座や視野は広がらないし、地域だけで働いていると今の医療現場でどういう風に治療が進んでいるかも後れをとってしまうと思ったからです。

白石:
後れをとってしまう……なるほど。そもそもやのさんが看護師になろうと思ったきっかけはなんだったんですか。

やの:
元々看護師になったのも父子家庭で3姉妹一番上の姉が看護師だったことや、資格を取って安定した仕事をしてほしい、困った生活をしてほしくないという父や祖母の気持ちもあったと思います。私としては数学の教師か美容師なんかいいなと思っていたんですけどね。だから、きっかけはわりとこんなもんです。学生のときも1年ダブっていますからね(笑)。実習に行ったときの看護師さんが無視はするし理不尽に怒ってくるし、もう行きたくないって夜のバイトばかりしていたら朝起きられなくなって、出席日数足らなかったんです。でも奨学金もあるし、子どもながらに父のことを考えるとブレーキがかかったんでしょうね。「好きなアイドルのDVDと原付バイク買ってくれるんだったらもう1年行ってやる」みたいなことを言って戻りました。こんな高齢者の看護についてかっこいいこと言っていますけど、元は不良娘ですよ(笑)。

しかも、昔はドラマ『救命病棟24時』が大好きで、ああいうバタバタ働いている看護師が一番かっこいいと思っていました。だけど、実際病院で働くようになってから、患者さんに対して丁寧にかかわっている看護師のほうがかっこいいと思うようになりましたね。

はっきりとしたきっかけではないですけど、認定看護師を取った頃に、入院してせん妄で身体拘束されている高齢者をみながら、「この人は独居だったけど家でどうやって生活していたんだろう」というところに疑問を持つようになりました。それをしっかりと自分の目で見ることができたのは、老年看護の専門看護師コースで訪問看護の実習に行ってからです。それまで病院で働いていて、自分たちが必要だと思う退院指導してサマリーを書いて、業務的なところでこなしていたと思うんですけど。実際、訪問に行ってみたら、もっと困っている方、そもそも生活が破綻している方、家族関係がいいように見えるけどすごく闇深い方……がすごく多くて。たぶん私ってなにも見えていなかったんだなと反省しました。

白石:
やのさんは地元で高齢者も多い地域で生まれ育ったと言っていましたが、それでもなにも見えていなかったと感じたんですか。

やの:
そうですね。地域に暮らしていたおじいちゃんおばあちゃんは元気だったから、みんな退院したらああいう風に元気に過ごしていくんだろうと思っていたんですよ。だけど、看護師が訪問で自宅にわざわざ足を踏み入れてみてみると、思ったよりひどい状況であることは多かったですね。外では小綺麗にしているおばあちゃんでも、家のなかはしっちゃかめっちゃかだったり、奥さんのことをすごく愛していて介護は頑張っているんだけど、自分の健康は二の次でストレスを抱えて病院に行けていない旦那さんだったりとか……。

地域の人間として入ってくるものと、医療者としてその高齢者の家に足を踏み入れて入ってくるものは違うと思いますし、そこは専門職がわざわざ足を踏み入れて、ケアすることが大事、大切だってすごく感じています。

働き者の私が仕事に行きたくないときは、身体と心が悲鳴をあげている

白石:
では、本題となる質問のカードをこちらから選んでください。

やの:
右から3番目で。

白石:
「仕事に行きたくないときどうしていますか」です。やのさん、昔バイト掛け持ちで40連勤とかしていたそうですが……。

やの:
そうなんですよ、めちゃくちゃ働いていたいタイプなんで。だけど、行きたくないときは行きません。私は行かない。本当にこれちょっと書けない内容かもですね。最近はないですけど、昔は父を偽りの病名で入院させたことが何度かあります……。特にICUで働いていたときは新人1人で、すぐ上の先輩でも4年目とかで、特別仲良くしてくれるわけでもなかったので、黙々と1人で勉強しすぎて一度身体を壊したんですよ。もうなにもかもしんどくなって、こんな私でも本当に死にたいと思っていたんです。誰に頼ったらいいかわからなくなって。そのときのつらさをわかっているから、基本働き者の私が仕事に行きたくないと思ったら、それは身体と心が悲鳴をあげているから、もう行かない。私は行きません。

白石:
過去の経験のなかで赤信号がはっきりとわかっているんですね。そうなる前の黄色信号ってやのさんにとってどんなことがあるんですか。

やの:
基本ショートスリーパーで、看護師3年目ぐらいから大学院入るまではトリプルワークでバーッと働いていたんです。休みより働いてお金を稼いで好きなものを買う、それが別に苦でもなくて。家に帰ってきてもすぐにぐんと眠れるタイプなんです。だけど、その眠りが浅くなる、寝つきが悪くなったら「あ、ダメダメ。明日やーすも!」って頭のなかでカンカンカンとサイレンが鳴ります。そうしたら、もうパソコンに向かわない、参考書は開かない、課題もやらない、教授からのメールも見ない。昼からビール飲んで、映画のDVD観て好きなことだけやって1日ダラダラ過ごす。そうして、次の日からは課題や仕事とかちゃんとやります。

白石:
なんだか竹を割ったような性格ですね。なにが仕事に行きたくない理由なんだろうとか、なにか自分自身をアセスメントするわけではないんですね。

やの:
そうですね。元々はだらしない人間なんで、2日も3日もダラダラしていると、ずっとダラダラしたくなっちゃうんで、連休とかいらないんです。ずっと働いていたいんです。

でも、日本人の悪いとこですよ。私もよく言いますけど、全部自分が悪いって、その改善点を自分に求めること多いですけど、しゃあないやん。先輩に悪口言われて行きたくないって思ったんなら、悪口言った方が悪いんやから、仕事に行きたくないんやもん。自分が悪いって、そんなことばっか考えているから若い子たちがほんまにしんどいときに休みづらくなって、心折れて辞めていくんですよ。自分のしんどい度合いがすごく強いときに、わざわざ自己犠牲をはかる必要はない。

白石:
おぉ……だんだんやのさんの本調子出てきましたね(笑)。

やの:
でも、昔はひたむきに自分と向き合って、自分のことを責めてしまうようなタイプでしたよ。生まれたときからこんな人間ではないので(笑)。

知らない自分が嫌、だけどそんな簡単に推し量れるようなものではない

白石:
ちなみに、やのさんがそのトリプルワークとかでいろいろと働かれていたのって、どんな理由からだったんですか。

やの:
知らない自分が嫌なんですよね、いろんなところで経験を積みたいと思っていたので。認知症の勉強をしはじめた頃はわりとクリティカル領域のところで働いていたので、医療のことばっかりやってなんでも病気病気病気うるさいってずっと思っていました。だけど当時、違和感や疑問はあったけど、自分がなにをしたらいいのかわからなかったので。そのへんは訪問看護の実習でより明確になりましたよね。

白石:
やのさんのやりたいことが明確になったというのは。

やの:
もちろん病気の治療をサポートすることも大事なんですけど、実習を通して実際に高齢者とか認知症の人が家でどういう生活をしているのかを目の当たりにして、病院で働いていても、本人はこう言っているけど本当はどんな生活をしているのかなと具体的に話を聞くようになりましたよね。家では何時頃に起きて、どんなことをしているのか、どういう家に住んでいるのか、もっと生活のことをより具体的に。イメージがつくようになった、広がるようになったんだと思います。

白石:
あ~。たまに退院時チェックリストみたいなもので、家のことちょっと書くだけの用紙とかあるじゃないですか。寝室は畳かベッドかみたいな。

やの:
ほんま、しょうもないですよ。エゴイズムの塊だと私は思っていますね。そんなチェックリストで推し量るような生活だったらね、世の中の高齢者は誰も困っちゃいないんですよ。看護師が指導した内容をね、家に帰ったら100%ちゃんとやり続けている本人や家族なんていないですよ。……ちょっとここ綺麗に書いてください(笑)。

白石:
(笑)。やのさんって、これまでしんどい時期もあったりしても、そういうときに誰かに相談しながらみたいなことはあったんですか。

やの:
あまり人には相談しないと思いますよ。職場の愚痴くらいは言うけど、自分の進路とか認定看護師も大学院も全部自分で決めましたね。家族とか一緒に住んでいる人間にも許可を得ずに決めました。自分がなりたいから、応援してくれへんのやったら、別居するって言った気がする(笑)。人になにか自分の人生を変えてもらうほど、そんなことは求めていないし、自分のことは自分の人生やし、自分で決める。あとから失敗したのはあの人がああ言ったからだと言いたくないし。まぁ、元々学生時代は陰キャだったので、人見知りでネガティブやし……周りの目をすごく伺って過ごしていた時期もありましたけどね、特に新卒の頃は。だけど、どこで働いていても、自分の働き次第やなってトリプルワークをしていて思うようになりましたね。

誰を対象にして看護をやっているのか

白石:
最後に後輩の看護師に伝えたいことをお願いします。

やの:
よくセミナーとか後輩に対して言うのは、あなたは誰に対して、誰を対象にして看護をやっているのか、もうちょっと考えたほうがいいってことですね。先輩が言ったからとか、このマニュアルにはこう書いてあるとかそんなことばっか言っているけど、患者さんが見えていないなと思う人すごく多いなと思っていて。やっぱり一回立ち返って、看護を提供するときにその人のためになることはなんなのか、どうしてあげたほうが幸せなのか、医師の指示や先輩看護師、師長が言ったからだけではなく、自分で考えることの意識っていうのは持っていないといけないし……。

看護の対象は患者さん、高齢者とか認知症の方で、その人をみてほしい。病気や障害としてではなく、人としてみてください。認知症だから、できないことを全部認知症のせいにしないでって。その人がやりたくないだけかもしれないから。認知症っていう言葉に引っ張られている人間が多すぎるんですよね。診断がついたから、「あ、もうこの人は認知症やからこんなこと言ってくる」と。易怒性が高いという言い方をすることがありますが、それはあなたの言い方が荒っぽかっただけちゃうんかいっていうこともよくあって。こういう認知症の偏見はやっぱりどうにかしないといけないなと思いますね。

白石:
実際の現場ではどんな風に話すんですか。たとえば、認知症の患者さんが~って愚痴っている後輩に対して。

やの:
患者さんの手を握ったらバンッと払いのけられたと、「もう無理、なんでわからへんの」とイライラしている後輩がいるとしたら、私も同じように後ろから近寄ってバンッと手を握って「こうやって突然後ろから手首握られたら、びっくりしたり怒ったりせえへん?」と言ったことがあります。これはよっぽどのことがないとこんなことはしないですけど。「自分が同じことされても大丈夫やから患者さんにもそう言ってんねんな」「認知症やからわからへんと思ってる?」とはっきり言います。こんなんだから、ちょっと怖い看護師さんだと思われていますね(笑)。

白石:
はっきりと言うんですね。その後、後輩の考えや行動が変わったりするんですか。たとえば変わる人って、やのさんから見てどんな看護師さんですか。

やの:
吸収力が高いっていうのかな。私の話だからではなく、自分がやっている看護の妥当性をすごく考えている看護師はクリティカル領域には多いと思いますね。指摘したときは、「あ、そうですね。ちょっと急がなあかんと思っていたんで、たしかに……」となって、その後に「これでいいんですかね」って質問や確認をしてくるような。でも、自分がやっている看護やケアが本当にこの人のためになっているか、間違っていないかと常に考えすぎている子は、同時に心配にもなる。人に影響されやすいから、常に不安だし、いろんな人の話や意見を聞いて勉強する気はあるけど、流されやすくてそのうち折れてしまいそうって。

白石:
難しいですね。吸収力が高くても、そのなかで自分との折り合いとか、線引きができるようになったほうがいいんですかね。

やの:
吸収力が高いのか、影響されやすいだけなのかって、判断つきにくいですよね。影響されやすい看護師さんはやっぱり心が疲れちゃうんだろうなって思うし、風邪を引いたらみんなに「すみません、すみません」ってずっと頭を下げていたりするような感じで。難しいですね。自分が疲れたときに、ちゃんと対処が取れる人、逃げることができる人ですかね。ここらへんのサポートって、リーダーや管理者とかになるんだろうけど。まあ、ねぇ……。もう周りを当てにはしていられないですよ。どんだけ周りがサポートしたって、自分が強くならないと看護の世界ってやっていけない部分があるというのは事実ですよね。自分の心を強くするのも、自分の逃げ道をちゃんと作ってあげられるのも、自分次第だと思っているのでこればっかりは。

白石:
すごい……今日はいろいろお話を聞いていて、やのさんの芯の強さや真っすぐな素直さで気持ちいい感覚になるのは新鮮でした。ありがとうございました!

インタビュアー・白石弓夏さんの著書



Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~

Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~
私もエールをもらった10人のストーリー


今悩んでいるあなたが元気になりますように
デジタルアートや3Dプリンタを看護に活用したり、看護をとおして一生の出会いをつかみ取ったり、在宅のほうが担い手が少ないから訪問看護に従事したり、苦しかった1年目のときの自分を手助けできるようにズルカンを刊行したり、医療と企業の橋渡しをするためにスタートアップに就職したり、悩みながらも新生児集中ケア認定看護師の道をまっすぐ進んだり、ロリータファッションモデルとして第一線で活躍しながら看護師を続けたり、目的に応じて疫学研究者・保健師・看護師のカードをきったり、社会人になってから「あっ、精神科の看護師になろう」と思い立ったり……。 さまざまな形・場所で働く看護師に「看護観」についてインタビューしようと思ったら、もっと大事なことを話してくれた。看護への向き合い方は十人十色。これだけの仲間がいるんだから、きっと未来は良くなる。「このままでいいのかな?」と悩んだときこそ、本書を開いてほしい。

目次


◆1章 クリエイティブな選択肢を持つこと 吉岡純希
◆2章 大きな出会いをつかみ取ること 小浜さつき
◆3章 現実的な選択肢をいくつも持つこと 落合実
◆4章 普通の看護師であること 中山有香里
◆5章 ものごとの本質をとらえる努力をすること 中村実穂
◆6章 この道でいくと決めること 小堤恵梨
◆7章 好きなことも続けていくこと 青木美沙子
◆8章 フラットに看護をとらえること 岡田悠偉人
◆9章 自分自身を、人生や仕事を見つめ直すこと 芝山友実
◆10章 すこしでも前を向くきっかけを作ること 白石弓夏

発行:2020年12月
サイズ:A5判 192頁
価格:1,980円(税込)
ISBN:978-4-8404-7271-5
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やのさんが執筆にたずさわった書籍



高齢者のアセスメントは解剖生理が9割

高齢者のアセスメントは解剖生理が9割
病棟から介護施設、在宅まであらゆるナースに向けた解剖生理


高齢者を知りケアに生かすための解剖生理
現場で実際に起こっている高齢者の困りごとを解決するヒントは解剖生理にある……。本書では、高齢者が自身の障害や加齢性変化とうまく付き合いながら生活できるために看護師として必要なケアの視点を解剖生理から取り上げる。高齢者看護に必要な各分野のエキスパートが解剖生理の基礎からケアのヒントまでを解説する。

目次


【1章 頭から足先まで 高齢者ケアに必須の解剖生理】
■1)認知機能-認知症の理解は解剖生理が9割-
解剖生理で語りきれない1割のハナシ
・元気がない?高齢者看護で押さえるべき「認知症とうつ」
■2)感覚機能-高齢者の世界を理解するには解剖生理が9割-
解剖生理で語りきれない1割のハナシ
・「ヒアリングフレイル」と「アイフレイル」を予防して要介護状態を防ぐ
■3)運動機能-高齢者が望む場所で暮らすためには解剖生理が9割-
解剖生理で語りきれない1割のハナシ
・サルコペニアの予防で高齢者を元気に
■4)摂食嚥下機能-高齢者の生きる活力を支えるには解剖生理が9割-
解剖生理で語りきれない1割のハナシ
・オーラルフレイルと食支援
■5)呼吸機能-高齢者の活動を維持するには解剖生理が9割-
■6)心機能-高齢者の生活支援には解剖生理が9割-
■7)腎機能-高齢者の体調管理は解剖生理が9割-
解剖生理で語りきれない1割のハナシ
・高齢者の多病~マルチモビディティ
■8)排泄機能-高齢者の自尊心を守るには解剖生理が9割-
■9)皮膚機能-高齢者の皮膚トラブル解決は解剖生理が9割-
■1章で語りきれない1割の最新情報
孤独にならない支援でフレイルドミノを防ぐ

【2章 高齢者の困りごとを解決する解剖生理】
■1)転倒・転落-転倒・転落予防は解剖生理が9割-
■2)脱水・熱中症-脱水と熱中症予防は高齢者の解剖生理が9割-
■3)せん妄-せん妄の要因を理解するには解剖生理が9割-
■4)食欲不振とオーラルフレイル-高齢者の食べる楽しみを支えるには解剖生理が9割-
■5)高齢者に求められるちょっとしたケア-フットケアと爪のケアは解剖生理が9割-
■2章で語りきれない1割の最新情報
CFOで高齢者の最期を考える

【3章 生活を支えるくすりの生理】
■1)下剤-なかなか出ない!高齢者の苦痛を和らげる下剤の使用方法-
■2)鎮痛薬-どこが痛い?多科で処方される高齢者の疼痛緩和-
■3)降圧薬-安静中と活動中に乱高下?高齢者の血圧コントロールの最新情報-
■4)利尿薬-セルフモニタリングはむずかしい!脱水・溢水の評価が困難な高齢者たち-
■5)血糖降下薬-「薬は飲まないと!」食欲不振でも糖尿病治療薬を内服する高齢者-
■6)睡眠薬と抗精神病薬-寝たら解決?!乱用には要注意!-
■3章で語りきれない1割の最新情報
多剤でなければ大丈夫?ポリファーマシーの本質とは

発行:2024年3月
サイズ:B5判 168頁
価格:2,970円(税込)
ISBN:978-4-8404-8462-6
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