みなさん、はじめまして!
“病院のお父さん“と呼ばれる臨床工学技士の松井です。
長年、小児専門の臨床工学技士として、患者さんやご家族と楽しく、雑談しながら働いておりました。
と、自己紹介が長くなりそうなので、私については、下記をポチッとしてご覧いただければ幸いです。

【著者自己紹介】

この連載を始めるきっかけとなったのは、KIDS Home Care Device 研究会の立ち上げです。この研究会は「医療的ケアが必要な子どもたちが使用する医療機器・医療消耗品などをもっと良いものにしたい!」という思いから、多職種とご家族、そして企業が一緒にみんなで意見を出し合ってみようということから始まりました。第1回の研究会を2021年12月に開催しましたが、多くの反響があり、在宅で使用される医療機器への関心の高さがうかがえました(研究会のレポートはこちらから)。

こちらのメディカLIBRARYでは、小児の在宅医療機器について、教科書には載っていないけれど大事な内容をできるだけご紹介していきたいと思います。

昨今、医療的ケアが必要なお子さんは年々増加しており、おうちに帰るお子さんの重症度も上がってきています。
そのような背景から、2021年6月には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(「医療的ケア児支援法」)が成立し、2021年11月に施行されました。

医療的ケアのある子ども達のため、自宅や通院での支援体制だけでなく、学校やデイサービスなど地域で子どもたちを受け入れ、社会として支援体制を整える必要性が法律で定められたのです。そして、多くの自治体や支援団体がその準備を始めており、今、非常にたくさんの研修会やセミナーが始まっています。
そのなかで、これまで医療者がおもに行っていた在宅医療機器の管理を、医療職以外の方も管理することになってきています。しかし、在宅で使う医療機器は非常に多種多様であり、その選びかたも明文化されたものはなく難しいものとなっています。
そこで、この連載では、小児在宅医療で使用される機器を、どういった視点で選ぶとよいのかを主に説明していきたいと思います。



前置きが長くなってしまいましたが、最初に取り上げる医療機器は「ポータブル吸引器」です。

なぜ一番最初がポータブル吸引器なの? 人工呼吸器じゃないの? と思われるかも知れませんが、人工呼吸器を使用したり、気管切開で呼吸管理を行ったりする子どもたちにとって、分泌物管理は非常に重要なファクターなのです。

「分泌物管理なくして、在宅呼吸管理なし!」

と筆者は考えています。
そして、小児在宅医療におけるポータブル吸引器は「命の砦」なのです。



在宅人工呼吸管理を行っている患者さんに使用される医療機器の重要度から考えてみましょう。

医療者をはじめとして、一般的に考えられる医療機器の重要度は、

人工呼吸器>吸入器>排痰補助装置>加温加湿器>ポータブル吸引器

という順番で考える方が多いのではないでしょうか。
人工呼吸管理を行っていて分泌物が固くなると、まずは朝と寝る前の2回ぐらいの吸入から始めましょうになると思います。それでも分泌物が固いと回数を増やしていくことになります。さらに、十分に分泌物が引けないとなると排痰補助装置(カフアシストやコンフォートカフなど)が導入されます。

しかし、これって、何かおかしいと思いませんか?

固くなった分泌物を時々、無理やり排痰しようという考えです。
本来であれば、24時間365日、分泌物を正常な状態に保つことが必要なのではないでしょうか。
そもそも吸入療法は、気道炎症の緩和・線毛運動機能の向上・粘膜損傷の回復が目的であって、分泌物を柔らかくするという効果はありません。生理食塩水による吸入で分泌物が引けるということはありますが、これは、多量の水を気道に送り、“溺れさせた”状態でその水の流れによって分泌物を吸い出すという原理だと考えています。また、排痰補助装置は分泌物が柔らかくないと効果がありません。そして、実際にご家族からも、排痰補助装置を使って満足できる吸引ができていると聞いたことはありません。これは、苦しい状態にさらに苦しいケアを加えていることになります。


ということで、私の考える在宅人工呼吸療法における医療機器の重要度は、

加温加湿器>ポータブル吸引器>人工呼吸器>吸入器>排痰補助装置

の順になります。

人工呼吸管理をしているなら人工呼吸器が1番でしょう! と言われそうですが、気道が分泌物で詰まっていたら、いくら良い人工呼吸器を使っても換気はできません。

まずは、人工呼吸器から送られるガスの通り道をきれいにすることが重要なのです。 24時間365日、分泌物を柔らかく保つことに一番重要なアイテムが加温加湿器、そして、その分泌物をしっかり引いてあげるポータブル吸引器が2番目に大切なのです。

ということで、次回からは、在宅に適したポータブル吸引器を選ぶため、知っておいて欲しいことを説明していきます!

新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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イラスト:八十田美也子 みやよしえ

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一般社団法人日本呼吸療法医学会 小児在宅人工呼吸検討委員会 編著
岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修

定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5

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