みなさん、こんにちは!
ポータブル吸引器の3回目です。
第2回目では、吸引圧力の単位と小児における設定吸引圧力についてお話しさせていただきました。
そして、ポータブル吸引器では院内における設定圧力と同じにしても「引けない!」という声が多く聞かれることをお話ししました。
今回は、「引けない!」という理由について説明しましょう。
小児在宅医療におけるポータブル吸引器は「命の砦」とお話ししましたが、では、分泌物が引けないとどうなるでしょう?
吸引パワーが弱いと、次のようなことが起こります。
☑分泌物を吸引しきれない
☑肺雑音がきれいにならない
☑SpO2の改善が不十分
☑SpO2が不安定
☑体調が悪くなる(さまざまなことに繋がりますね)
また、吸引パワーが弱いと次のようなことが起こります。
☑吸引に時間がかかる
☑吸引回数が多くなる
☑お子さん・ご家族・介護者などの負担とストレス
よって、ご家族は在宅で吸引器を使用する場合は、病院で説明された吸引圧力ではなく、最大パワーに上げて使用しているという方が多いのです。最大パワーで、やっと分泌物管理ができていると聞きます。
なぜ、こんなことが起こるのでしょうか?
まず、病院の中央配管による吸引パワーについて説明します。
病院の中央配管に接続される壁かけ吸引器で吸引したときに、「引けない」という感覚になることは、よほどドロドロしたものを引かない限りは感じません。
中央配管の吸引エネルギーを作るのは吸引ポンプです。
もちろん、ポータブル吸引器にも吸引ポンプが内蔵されていますが、中央配管の吸引ポンプは24時間365日、休まず動き続けているのです。停電が起こっても発電機で作られる電源に切り替わり止まることはありません。もし吸引ポンプが故障しても大丈夫なように、バックアップ用の吸引ポンプも備わっているのです。
この吸引ポンプにリザーバータンクという容器がつながっていて、このリザーバータンクの吸引圧力が-45~-60kPaに保たれています。
この吸引圧が、病院に張り巡らされている配管を通じて、中央配管の接続部まで伝わっているのです。
ですから、壁かけ吸引器自体は吸引をするための動力は必要ありません。壁かけ吸引器は、中央配管が持っている強い吸引圧力を弱い圧力に調整する圧力調整器なのです。壁かけ吸引器は中央配管に接続された瞬間から強い吸引パワーを持ち、壁かけ吸引器のON/OFFバルブを開けた瞬間に吸引ができるのです。
最近の壁かけ吸引器には圧力メーターが付いておらず、吸引圧力をダイヤルで設定するだけになっています。なぜ、圧力メーターが必要ないかというと吸引パワーが強いので、設定吸引圧力に達するのが非常に速いのです。ですから、圧力が上がったかどうかを圧力メーターで確認する必要がないのです。筆者の感覚ですが、設定吸引圧力には0.1秒で達します。
吸引チューブを開放しておくと、吸引チューブの先端から空気が吸いこまれるシューシューという音が聞こえます。このときの吸引チューブの先端は開放されているので、先端の吸引圧力は大気圧のゼロの状態です。
設定吸引圧に達するときはどんなときかというと、吸引チューブが分泌物を捉えて、吸引チューブが閉塞状態になったときです。分泌物を捉えたら0.1秒で設定吸引圧力になり、あっという間に分泌物が吸引チューブを通り抜けていきます。
壁掛け吸引器って、すごいパワーを持っているんです!
次回は、吸引流量の重要性について説明していきます。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 みやよしえ
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ISBN:978-4-8404-7888-5
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