みなさん、こんにちは!
ポータブル吸引器の選びかたの8回目です。

第7回目では、気管切開や喉頭気管分離で吸引するのに適したポータブル吸引器についてお話ししました。
気管切開や喉頭気管分離では、吸引流量が25L/分以上のポータブル吸引器を選びましょうというお話をしました。
ですが、実際には、みなさん13L/分~15L/分の吸引流量のポータブル吸引器を購入されているのが現状です。
このパワーのない吸引器で、患者さんにできるだけ負担がなく短時間でしっかり吸引するにはどうしたら良いかについてお話ししましょう。

まず、吸引をする前に、吸引器の吸引圧力が正しく設定されているかを確認するため、吸引チューブの根元を折り曲げて、吸引器の吸引圧力を確認すると思います。 きっと設定の吸引圧になるまでには、すごく時間がかかっていると思います。

そして、吸引圧力を調整したら、折り曲げていた吸引チューブを開放すると思いますが、せっかく、吸引圧力が設定まで達したのに、開放すると吸引圧のメーターは下がってしまいますよね。
吸引チューブの先端が開放されるので、大気圧(ゼロ)になってしまいます。

この吸引チューブを開放した状態で、指定されている長さまで気管切開チューブから挿入すると、吸引チューブが分泌物によって閉塞し、吸引圧のメーターは上がっていきます。
それと同時に分泌物は吸引チューブを移動していくのです。
分泌物が吸引チューブの根元まで達し、吸引ホースに移ると、また吸引チューブは大気に開放されて吸引圧のメーターは下がるのです。

分泌物の動きと、吸引圧の変化がご理解いただけましたでしょうか。

吸引流量が多ければ、早く設定の吸引圧力に達しますが、少なければその吸引圧に達するのが遅く、時間がかかるのです。
なので、「吸引流量が少ないと引けない」ということになるのです。

では、吸引流量が少ないポータブル吸引器で、少しでも「引ける」と感じる吸引ができるようになるにはどうしたらよいのでしょうか。
多くのご家族から、「吸引圧力の設定ダイヤルを最大にしています」と聞きます。
これも1つの方法だと思います。

ポータブル吸引器は、設定吸引圧に近づくと、これ以上引いてはいけないと、自動的に吸引ポンプの流量を下げたり、大気を吸って、一定の吸引圧になるようにします。
設定ダイヤルを最大にしておけば、このような制御が起こらなくなるので、「引ける」という感覚が得られるのだと思います。

でも、特別支援学校の看護師さんや先生は、「吸引できなくて困る」と言います。
これは、第三号研修の喀痰吸引等指導者マニュアルの数値である「-20kPaで吸引しなさい!」と決められているのをしっかり守っているからです。
そして、学校に行くと分泌物が溜まって、具合が悪くなるというご家族からの訴えも聞かれることになるのです。

では、-20kPaの吸引圧で、少しでも「吸引できた」と感じる手技についてお話ししましょう。



まず、吸引チューブの根元を折り曲げて、設定吸引圧の-20kPaであることを確認します。
設定が調整できたら、通常、吸引チューブを開放してしまうことが多いですが、折り曲げたままで-20kPaを維持します
吸引器本体、吸引ボトル、吸引ホースのすべてが設定された吸引圧で平衡に達した状態をしっかりキープしてください。
そして、そのまま吸引チューブを設定された深さまで挿入します。
規定の深さに達したら、折り曲げていた吸引チューブを開放します。
すると、吸引チューブを開放した瞬間、吸引チューブの先端に吸引圧が発生するのです。
この吸引圧によって発生する吸引チューブ先端の吸引初速で分泌物を捉えます。
分泌物を捉えたと感じたらそのまま吸引チューブを抜いていきます。
時間をかけて引こうとしてはいけません。分泌物が吸引ホースに移動すると先端は大気圧(ゼロ)になって、再度吸引圧メーターが上昇するのに時間がかかるからです。

短時間で数回吸引する
こういった方法であれば、時間をかけて長々と吸引して患者さんを苦しくしてしまうことも減るのではないでしょうか。

あくまでも、1つの方法としてトライしてみていただければと思います。

次回は、災害時にも役立つ電気を使用しない吸引器についてお話しします。

新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5

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