みなさん、こんにちは。
第16回目より、吸入療法装置の選びかたについて説明をはじめました。
吸入器のエアロゾルを作る方式は、4つあることを説明しましたが、今回はジェット加圧式ネブライザーについて説明していきましょう。

ジェット加圧式ネブライザーは、いちばん古くからある方式です。

吸入薬を入れた容器にジェット流の圧縮した空気を流すことで、少量ずつの薬液を吸い上げるとともに、霧状にして、バッフルと呼ばれる部分に吹き付けることで、エアロゾルの粒子の大きさを安定化する方法です。

……と書きましたが、簡単には理解しにくいかと思いますので、図を用いて説明します。

以前の薬液ボトルはガラス製だった

エアロゾルを発生させるための薬剤を入れる容器は、「吸入支管(きゅうにゅうしかん)」と呼ばれていました。
そして、その容器はガラスで作られていて、非常に繊細なつくりになっていて、この構造を考えた人はすごいなと感じたことがあります(写真)。

写真 吸入支管(きゅうにゅうしかん)

この原理を説明していきましょう(図1

図1 吸入支管(きゅうにゅうしかん)の原理

吸入薬は上にあるゴム栓を外して入れます。
吸入薬は底の部分に溜まりますが、この底の部分からロート上のガラス棒が上に伸びています。
ジェット加圧式ネブライザーで作られた圧縮した空気は、チューブによってガス取り付け口に繋がります。
そして、このガスが細くなった先端からジェット流になって噴き出します。
そうすると、ロート上に伸びたガラス棒の先端にあたり、ここで陰圧が生じます。
この陰圧によって、底に溜まった吸入薬を表面張力とともに上に吸い上げていくのです。
底から吸い上げられた吸入薬は、ジェット流のガスによって霧状になります。
霧状になった吸入薬の大きさはまちまちで、不安定です。
そこで、ジェット流が噴出した先にある、バッフルと呼ばれる丸いガラスに吹きつけることで、霧の大きさを安定化させ、エアロゾルとして吸入支管の先から出て患者さんに投与されるのです。

インターネットで調べると、今でも販売しているようですが、最近では、ガラスで作られた吸入支管を見ることはなくなりました。

現在主流の薬液ボトルの構造とジェット加圧式ネブライザーの仕組み

最近使用されている薬液ボトルの構造で説明していきましょう(図2)。

図2 ジェット加圧式ネブライザー用薬液ボトル
(文献1より引用)


薬液ボトルの底から、空気のジェット流が流れるロート上の棒があります。
この棒の周りには給水管と呼ばれる隙間が空いています。
薬液ボトルに吸入薬を入れると、毛細管現象によって、給水管を吸入薬が上に登っていきます。
さらに、ジェット流が流れると、棒の先端に陰圧が生じ、さらに吸入薬を吸い上げる力が増します。
吸い上げられた吸入薬がジェット流にぶつかることによって吸入薬は霧状になります。
先ほども説明しましたが、この霧の大きさは不安定です。
よって、霧になった吸入薬をバッフルにぶつけることで安定したエアロゾルにします。
エアロゾルになった薬液は、薬液ボトルの先から患者さんに流れていきます。

病院であれば、ジェット加圧式ネブライザーがなくても、吸入支管・吸入用の薬液ボトルがあり、中央配管(圧力をもった)の空気配管に空気流量計を使用すれば吸入療法ができます。また、酸素で行えば酸素療法を併用しながら吸入療法を行うこともできます。

※液体の中に細い管(毛細管、毛管)を立てると管内の液が管外の液面より上がるまたは下がる現象のこと。



第16回目でも説明しましたが、ジェット加圧式ネブライザーのエアロゾルの大きさは、超音波ネブライザーやメッシュ式ネブライザーより大きめ(1~10μm)ですので、肺胞まで届かせるのは難しいです。 上気道に噴霧することで、効果を示す吸入薬を使用すると良いでしょう。

でも、ジェット加圧式ネブライザーは使用できる吸入薬を選びません。
どんな吸入薬にも使用できます。
超音波ネブライザーは、懸濁液(薬剤が希釈液に溶けておらず、吸入薬が粒子状に存在している)では、希釈液ばかりが噴霧されてしまい、吸入薬が噴霧されませんが、ジェット加圧式ネブライザーではこのようなことは起こりません。
また、超音波ネブライザーは、薬液を噴霧するときに熱が生じます。
この熱によって吸入薬が変性してしまうことがありますが、ジェット加圧式ネブライザーでは熱が発生しないので、このようなことは起こりません。

ジェット加圧式ネブライザーで送気できる流量は4~8L/分程度です。
流量が多いほどパワーがあるといわれています。
パワーがあれば薬液としての効果が高いのか? というとそうではありません。
パワーがあるというのは、吸入薬を短時間で噴霧できるということです。
人は、吸ったり吐いたりすることで呼吸をしており、もちろん、吸入薬は息を吸っているときにしか吸い込むことができません。
吸っているとき以外にも連続的に吸入薬は噴霧されているので、吸っていないときの吸入薬は大気に逃げていってしまいます。
パワーがあると、たくさんの吸入薬が体に入って、効果が高くなるということではありません。
ゆっくり時間をかけてエアロゾルを投与したほうが、効果が高いかもしれません。

在宅医療をされているご家族は、やらなければいけないことがたくさんあり、少しでも短い時間で吸入療法ができるのは良いことだと思います。
その点では、パワーがあるジェット加圧式ネブライザーを選ぶのも良いことだと思います。

吸入療法は、吸入薬液が気道や肺に沈着するのは準備した吸入薬のごく一部。
よって、パワーの有り無しには大きな違いはないかな? と筆者は考えています。

ジェット加圧式ネブライザーは、比較的安価で購入できることがメリットです。
小型なものもあります。
ただ、音が大きいというデメリットもあり、使用頻度が多いとコンプレッサーの音が大きくなったり、流量が低下しエアロゾルが作れなくなったりします。


今回は、ジェット加圧式ネブライザーについて説明しました。
次回は超音波ネブライザーについて説明します。

<参考文献>
1)松井 晃.完全版 新生児・小児ME機器サポートブック:きほん・きづく・きわめる.第2版.メディカ出版,2016,296p.



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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