みなさん、こんにちは。
今回は、吸入療法装置の3回目です。
超音波ネブライザーについて説明します。

超音波ネブライザーには、卓上型とハンディ型があります。
在宅医療で使用されるのはハンディ型が主になりますが、最近、調査をしたところハンディ型の超音波ネブライザーは販売中止になっており、次回に説明するメッシュ式ネブライザーが主流になっています。


超音波ネブライザーの原理は、薬液を超音波の振動子によって霧状にする装置です(図1)。
エアロゾルの粒子の大きさは1~5μmで、肺胞にも到達して沈着するとされ、ジェット加圧式ネブライザーよりも効果的なネブライザーとして使用されてきました。

図1 超音波ネブライザーの原理(文献1より引用)



しかし、超音波ネブライザーにはいくつか欠点があります。
その1つは、振動子が動くことによって熱が発生することです。
この熱によって変性してしまう薬剤があります。
また、懸濁液(けんだくえき)と呼ばれる状態の薬剤には使用できないということです。
懸濁液(けんだくえき)とは、薬理効果を期待する成分が希釈液に溶けておらず、粒子のまま浮遊した状態で存在している薬剤のことで、ステロイド剤のパルミコート®が有名です。
超音波ネブライザーの仕組みでは、希釈液ばかりが噴霧されることとなり、薬理効果を期待する薬剤が噴霧されにくいのです。

ハンディ型超音波ネブライザー

ハンディ型の超音波ネブライザーは小型・軽量であり、音も静かというメリットがあり、ジェット加圧式ネブライザーよりもやや高価ではありましたが、購入されるご家族は多かったです。 ジェット加圧式ネブライザーより、やや薬液ボトルを消毒しやすくできていますが、呼吸器回路に接続することが難しいです。

卓上型超音波ネブライザー

ハンディ型より古くから使用されていたのが、卓上型の超音波ネブライザーです(図2)。
口元近くで、持続的に加湿目的(排痰目的)として大量のエアロゾルを噴霧するときに使用されます。
ハンディ型超音波ネブライザーより、大量の水分を噴霧できる卓上型超音波ネブライザーですから、加湿効果が高く、排痰効果は高いと思われるのが一般的です。

図2 卓上型超音波ネブライザー(文献2より引用)



排痰目的(加湿目的)として使用される薬液は、生理食塩水もしくは注射用水(滅菌蒸留水)です。

さて、生理食塩水と注射用水のどちらが効果的に分泌物を柔らかくするでしょうか。
分泌物を柔らかくする効果は、どちらにもあまりありません。
しいて言えば、生理食塩水のほうが気道に優しく、気道攣縮を起こしにくいです。
生理食塩水のほうが、喘息発作は起こしにくいということになります。
排痰目的に対する生理食塩水の吸入療法は短期的な効果であり、分泌物を柔らかくする効果は低いといわれています。
非常に少ない水の量になりますが、温められて作られた水蒸気(H2Oの分子)のほうが分泌物を柔らかくする効果は高いです。
大量の生理食塩水の噴霧は、気道や肺を溺れさせるばかりで分泌物を柔らかくする効果は低いです。
しかも、水分に溺れて、SpO2が低下することもあります。
超音波ネブライザーの効果は、多量の水分で気道や肺が洗浄されるとともに、分泌物が剝がされて取り除かれるとイメージしていただければよいと思います。



昔は、卓上型の超音波ネブライザーが当たり前のように稼働していました。
ところが、ある論文をきっかけに、病院から卓上型の超音波ネブライザーが消えていきました。
超音波ネブライザーは汚染しやすく、特に蛇腹の汚染度は高いという論文が出たからです。
8時間ごとに蛇腹ホースを交換しないといけないという論文で、超音波ネブライザーは感染リスクが高いという報告でした。

また、以前は、室内の加湿装置として超音波式の加湿器が多く販売されていました。
しかし、部屋中に細菌やバクテリアが噴霧されるということで販売されなくなりました。
アメリカ疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインでは「病室内での超音波式加湿器の使用禁止」としています。
医療用と家庭用では、噴霧の構造が異なります。医療用は超音波を伝える作用水と噴霧される薬液のボトル部分が分離されているので、汚染された水が噴霧されることはありません。
それに比べて、家庭用の超音波加湿器は、作用水そのものを噴霧する構造で、水が貯留する部分をきれいに洗うことができない構造でした。

しかし、論文では、医療用の超音波ネブライザーは「蛇腹ホースを介して患者側から汚染が始まり、蛇腹ホースに貯留した水が汚染される」ということでした。
この論文をきっかけに、私の病院から卓上型の超音波ネブライザーは消えていきました。

まだまだ使用されている施設はあるようですし、卓上型超音波ネブライザーを気管切開に吹き付けて加湿をしたり、バッグバルブマスクの空気取り込み口に接続して、用手換気をしたりしている施設もあるようですが、あまりお勧めできる手法ではありません。
また、卓上型超音波ネブライザーには圧力がありませんので、人工呼吸器の呼吸器回路に接続すると、噴霧された薬剤が逆流するのみならず、人工呼吸器から送気されるガスも卓上型超音波ネブライザーに漏れてしまうため、人工呼吸器の圧も上昇しなくなるので、人工呼吸器と併用することはできません。

今回は、超音波ネブライザーについて説明しました。
次回は、メッシュ式ネブライザーについて説明します。

<参考文献>
1)松井晃.小児在宅呼吸療法マニュアル.第2版.メディカ出版,2022,272p.
2)松井晃.“⑦吸入療法”.改訂2版 在宅医療が必要な子どものためのケアテキストQ&A.メディカ出版,2023,108-13.



新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory

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