今回は、パルスオキシメータの選びかたの3回目になります。
心臓の左心室から送り出される動脈血は、指先にも流れます。指先に脈波として伝わるのが細動脈です。この細動脈には拍動し、容積脈波の変化を起こします。前回、この脈動を赤い光で探し出すことがパルスオキシメータの大事な原理であることを説明しました。
指先には、皮膚、爪、筋肉、脂肪、骨といった脈動がない成分があり、細動脈から流れてくる血流は静脈血になり心臓に戻っていきます。通常は、この静脈血も脈動のない成分として、パルスオキシメータの測定では除去される成分になります。
拍動する成分は、酸素を多く含む赤い血液である動脈血です。この動脈血の色から、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定するので、脈を探し出すことができなければ、SpO2は測定できず、数字化されたとしても、この数値の信頼性はないのです。
よって、1分間の脈動を数えると心拍数(pulse late)になり、この心拍数がパルスオキシメータに表示されますが、まずこの心拍数が正確であることが、とても重要です。
拍動する成分のみの赤色から、ヘモグロビンと結合している酸素化ヘモグロビンの割合をパーセントで表示します。
単位が%(パーセント)ですので、100個のヘモグロビンに対して、いくつのヘモグロビンが酸素と結合しているか(いくつの酸素化ヘモグロビンがあるか)を表しています。
100個のヘモグロビンが酸素と結合していれば100%。
90個のヘモグロビンが酸素と結合していれば90%になります。
90%未満になると、基本的には動脈血酸素分圧は60mmHg未満になるので、呼吸不全になっていると診断されます。
100個のうち90個も結合してれば十分な酸素があるでしょ! と思われますが、酸素解離曲線から導き出される動脈血酸素飽和度と動脈血酸素分圧の関係では、SpO2が90%を切ると、急激にSpO2が低下するS字曲線を描くことから、酸素療法などの治療を進める必要があります。
さて、これまでは「パルスオキシメータは赤い光で測定しているよ」と説明してきたのですが、実際には2種類の光が使われていて、もう1つの光は赤外線になります。
赤色光と赤外線を使い、その光が赤い血液(動脈血)をどのくらい通過するのか、どのくらい吸収されるのか(吸光度)の割合から、SpO2を測定しているのです。
体温をもつ私たちは、赤外線を熱として身体から発散しています。
防犯対策として、暗い夜に人の気配を感じるとライトが点灯する野外センサーライトがあります。
なぜ人が近づくとライトがつくのでしょうか。
いわゆる人感センサーは、赤外線に反応してライトを点けるのです。
人は熱をもった生き物ですから、常に赤外線を発散しています。
この、身体から出された赤外線を人感センサーがとらえて、ライトを点ける仕組みなのです。
自動ドアは、昔は体重の重みによって反応しドアが開くシステムでした。
なので、体重が軽い子どもでは、ドアが開かないとか、お母さんが通るときに開いた自動ドアが、お母さんの後ろにいた子どもが通過しようとすると、自動ドアが閉まってしまうということが起きていました。
でも、今では、自動ドアも人感センサーで開閉するので、体重の軽い子どもでも自動ドアが開き、途中で閉まってしまうこともなくなりました。
すぐに話が横道にそれてしまう私ですがお許しを……。
何を伝えたいかというと、赤外線とは熱をもった光であるということです。
そして、熱をもった光ということは、センサーの装着部を温めてしまうことになります。
センサーから光を出すのが発光部、この光を受け取るのが受光部になり、この発光部と受光部が平行になるように装着することが大事です。
発光部と受光部が平行になっていないと、通過した光が受光部に届きにくくなるため、脈やヘモグロビンの色を正確に測定できなくなります。
発光された光を100%とすると、受光部に到達する光は1~5%程度といわれており、この数値が大きいほど、脈が取りやすい状態であり、測定される値も正確であるといえます。
受光部でとらえた光の割合をPI (Perfusion Index) 灌流指標と呼び、測定された値の正確性を判断することや末梢循環を評価することに使われます。
PI は1%以上ないと、正確性が低いとされています。
脈がわからない! となると、発光部からの光の量を増やして、脈を探そうとします。
脈が取れない状態が起こると、たくさんの光エネルギーを使って脈を探すのです。
センサーの赤外線がたくさん必要になるのは、成人と小児であれば、脈の小さい小児になります。
成人は脈が大きいので、少ない光で測定できます。
子どもは成人より血圧が低く、さらに、末梢循環が悪くて指先が冷たかったり、指がむくんでいたりすると、脈が取りにくくなるので、たくさんの光がセンサーから出され、時に発赤を起こしたり、低温やけどが起こることもあります。
循環動態が悪くなくても、センサーをきつく巻いてしまうと、脈が小さくなるので、発赤や低温やけどの原因になります。
よって、装着する部分に適したサイズのセンサーを選び、脈の流れを阻害しないようにセンサーを装着することが大事なのです。
今回は、パルスオキシメータのセンサーから発光される光は赤色光と赤外線の2種類であり、正しく測定できる受光量の割合や、光エネルギーをもった光は低温やけどを起こす可能性があることなどについて説明しました。
次回は、低温やけどについて、もう少し掘り下げて説明したいと思います。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子
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岐阜県総合医療センター 新生児内科 寺澤 大祐 監修
神奈川県立こども医療センター 新生児科(非常勤) 松井 晃 監修
神戸百年記念病院 麻酔集中治療部/尾﨑塾 尾﨑 孝平 監修
定価:5,500円(税込)
刊行:2022年8月
ISBN:978-4-8404-7888-5
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