2022年10月22日(土)に開催された第4回のテーマは、『在宅酸素製造企業さんと呼吸管理の困りごとを話そう!』でした。

今回の参加お申し込みは定員ほぼマックスの87名になりました。
在宅医療の中でも一番多く使用されている在宅酸素装置ということで、多くの方にご参加いただけたと考えています。

今回ご参加いただいた在宅酸素装置の製造企業は、フクダ電子株式会社さんです。
フクダ電子さんには、在宅専門に業務を行うフクダライフテックさんという関連会社があり、全国の拠点は日本でトップクラスの企業で、多くの患者さんやご家族を支えています。

研究会は下記のスケジュールで進行しました。



今回の司会は、一般社団法人未熟児家族支援・がんばりっこ代表の林英美子さん
とても心地よい声で進行してもらえました。

1.開会の挨拶は、私が務めました。
研究会の発足の経緯を伝えるとともに、参加されたみなさんと近未来的なデバイスの開発のアイデアを期待していることをお話ししました。
研修会の発足の経緯は、#001 「KIDS Home Care Device研究会とは何ぞや?」をお読みください。

2.ミニレクチャーは、「在宅酸素装置の基本を知ろう」というお題で、私からレクチャーさせていただきました。

どうして在宅酸素療法を行うの?

●小児在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)の意義は、慢性低酸素血症のまま退院すると下記4つのようなことが起こります。
①肺血管が収縮し肺高血圧症を起こす
②発育が抑制される
③運動能力が低下する
④呼吸器感染に対する抵抗力が低下し、再入院が増加する
     ↓
●HOTを導入することによって、下記のような良い点があります。
①児の苦しみが緩和され、安静が得られ睡眠を妨げない
②成長が促進される
③肺性心が予防できる
④家族との生活と療養を両立できるので、家族との分離期間が短縮でき、家族との絆形成に好ましく、家庭で養育することによる発育促進が期待できる

小児在宅医療を行っている患者さんの中で、在宅酸素療法を使用している割合は約40%で、一番多い医療的ケアです(神奈川県における小児在宅医療患者の実態調査より)。

●小児在宅酸素療法を導入する主な疾患は、下記のとおり。
1)呼吸器疾患
 ①新生児慢性肺疾患(CLD:Chronic Lung Disease)
 ②間質性肺炎
 ③肺線維症
 ④気管支拡張症
 ⑤肺気腫
 ⑥びまん性汎気管支炎
2)循環器系疾患
 ①先天性心疾患(チアノーゼ性心疾患)
 ②原発性肺高血圧症
 ③高血圧性心不全
3)多発奇形
4)神経・筋疾患

小児在宅酸素療法患者の年齢分布は、1歳が多く、1歳~3歳をピークに徐々に低下していきます。これは、新生児の慢性肺疾患(CLD)に対する在宅酸素療法の導入が多く、肺の成長と共に在宅酸素を中止されていることを示しており、成人で一度、酸素を使用すると亡くなるまで使用するのとはまったく異なる傾向です。

在宅酸素装置として一番使用されているのは酸素濃縮器

酸素濃縮器の原理には、PSA(Pressure Swing Adsorption)方式と酸素富化膜方式がありますが、ほとんどがPSA方式です。
PSA方式の原理は、吸着式(吸着型)とも呼ばれ、ゼオライトというセラミックを使用しています。ゼオライトは沸石とも呼ばれる天然鉱物で、触媒や脱臭などの用途にも広く使用されていますが、PSA方式ではゼオライトの窒素を吸着するという特性を使って高濃度酸素を作り出しています。90%以上の酸素濃度を供給できます。
酸素富化膜方式は古くから使用されている方法で、酸素富化膜という特殊な膜を使って酸素と窒素を分離し、約40%の酸素を作り出します。

酸素濃縮器の設置場所の注意点は、直射日光が当たらないところで壁から15cm以上離すこと、火器から2m以上離すこと、加湿器からも距離をとる必要があります。



酸素濃縮器とセットで使用される酸素ボンベには、酸素が気体のまま150倍もしくは200倍に圧縮されて入っています。ですので、圧力メーターを見て、使用できる時間を計算しなければいけません。もし、酸素ボンベが空になっても警報で教えてもらえないので注意が必要です。

酸素濃縮器とは異なる方式として、液体酸素装置があります。酸素を-183℃に冷やすと液体になります。液体酸素を魔法瓶の構造になっている容器に入れて、自然に気化する酸素を圧力調整して投与する方式です。酸素濃度は100%で病院と同じです。この装置の便利なところは、電気を必要としないことや、液体酸素を親機から子機に移すことができ、酸素を満タンな状態にしてお出かけができます。家でも、お風呂のときや好きな場所で使えるというメリットがあります。液体なので親機が重たくて、酸素業者さんも運ぶのが大変なことがデメリットでしょうか。

在宅酸素療法は、どのように行われているの?

在宅酸素療法は経鼻酸素カニューレを使った投与が行われます。
専門用語では低流量システムと呼ばれます。
酸素の流量で酸素濃度を調整しますが、酸素濃度を知ることも、患者さんの状態の評価として必要です。あまり酸素濃度を計算する医療者はいませんが、計算できるようになっておくと患者さんのアセスメントに有用です。



このようなレクチャーをさせていただきました。

小児酸素療法の基本をまとめた、『小児のための酸素療法実践ガイド』(アトムメディカル株式会社,監修:松井 晃)がありますので、参考にしてください。 下記よりダウンロードできます(無料)。
小児のための酸素療法実践ガイド ATOM MEDICAL

次回は、フクダ電子株式会社さんのプレゼン以降についてご報告いたします。




新型コロナ病棟ナース戦記

松井 晃
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポートブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory