「生物-心理-社会モデル(biopsychosocial model;BPSモデル)」とは、健康と病気について、生物学的(bio)・心理学的(psycho)・社会的(social)要因の相互作用の結果としてとらえる考え方です。BPSモデルを理解することは、「こころとからだ」の連動性の理解につながります。また、多職種連携のヒントにもなりえます。本連載では3回にわたり、心身相関とは何か、BPSモデルを活用することは実臨床にどのような効果をもたらすのかなどを紹介していきます。
2月23日にワークをまじえたセミナーを開催します。心理職をメイン対象としておりますが、多職種連携に携わる方にもぜひ受講いただきたい内容となっております。
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https://cocoro-job.jp/seminar_book/4630/
生物・身体的な理解や、対人関係・社会的な理解ができているか
私は、大学で心理学系の学科に所属していて、心理学について一般的な授業をしたり、公認心理師養成のための専門的な科目を担当していたりします。公認心理師を目指す大学生の場合、心理学に興味をもっていることはもちろん、非常に熱心で優秀な成績を収めています。そのような学生の成績表を見ていて、ときどき残念に思うことがあります。それは「○○心理学」「××心理学」のような心理学関係の科目がほとんどを占めており、それ以外の分野・領域の学問がそれほど多くないということです。
公認心理師を取得し、心理専門職として活躍する以上、心理学の知識を有していることや、心理支援に関する技術(心理検査を含む)は当然のことだと思います。しかし、そのように心理学や心理支援について学ぶことに注力する結果、心理的アセスメントや心理支援はできますが、そこに関わる生物・身体的な理解や、対人関係・社会的な理解がおろそかになってしまうことがあります。なかには、「心理専門職は、心理的アセスメントや心理支援ができればよいのだ」という心理至上主義ともとれるような考えをもつ学生までいます。しかし、それで本当に支援を要する人を理解し、その人に適切な支援をすることができるのでしょうか。
多面的に対象をみる
「1つのリンゴを思い浮かべてください」。このように言うと、多くの人は、赤いリンゴを横から見た状態をイメージします。それも確かにリンゴです。ですが、リンゴは真上から見ると、芯が中心にある状態になり、横から見たリンゴのイメージとは異なるものになります。下から見たリンゴもまた異なります。なかには、断面(断面にもタテと横があります)を思い浮かべる人やウサギ型に切られたリンゴをイメージする人もいるでしょう。
どのリンゴのイメージも間違ってはいません。ですが、横から見たイメージ、真上から見たイメージ、断面のイメージなど、さまざまなイメージを抱ける人のほうがリンゴをより理解できるでしょう。味や触感、においなどまでイメージできれば、調理方法・活用法まで考えることができるかもしれません。
心理至上主義を掲げる学生は、いわばリンゴを一面からしかイメージできない人と同じ状態にあります。しかし、心理専門職に求められるのは、リンゴを多面的にみることであり、またリンゴを多面的にみて、そこからさまざまな可能性を考えることです。絵本作家・ヨシタケシンスケ氏のデビュー作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)に登場する男の子は1つのリンゴからさまざまなことを想像します(仮説を立てます)。ちょっと想像力が豊かすぎるところはありますが、この男の子の姿こそ、心理専門職に求められている姿かもしれません。
ただ、「いろいろな角度からみましょう」「いろんな観点をもちましょう」といわれても、人は普段から見慣れている観点からしか対象をみることはできません。そのため、多面的に対象をみるためには、ある程度の枠組みやモデルが必要となります。その枠組みやモデルの1つが、書籍『誰もが知っている「緊張」の、誰も知らないアセスメントとアプローチ(通称、緊張本)』のなかでも取り上げているBPSモデルです。BPSモデルを学び、その枠組みを用いることで、少なくとも心理至上主義のような偏った視点から解放され、多面的なアセスメントが可能になると考えられます。心理学をしっかり学び、心理支援に従事していきたいと思うからこそ、心理至上主義から離れ、生物・身体的な面や、対人関係・社会的な面に目を向けることが必要なのです。
ワークを通じて普段とは違う視点を身に着けよう
しかし、人は普段用いていない視点を使うことは難しく、ときには抵抗感を抱くこともあります。それは当然のことです。しかし、それではいつまで経っても視野が広がらず、通り一片の視点しかもつことはできません。
そこで、私たちは今年2月にケースワークを通じてBPSモデルについて学べるセミナーを企画しました。大学の授業や公認心理師試験の勉強で、必ず出てくるBPSモデルですが、それを実際に活用するというところまで至っていない方も少なくないと思います。このセミナーでは、事例を通して、実際にBPSモデルをつくってみるというワークを伴ったセミナーとなっています。実際に自分でもBPSモデルをつくってみることで、普段とは違う視点からみることへの抵抗感も減り、現場で使ってみようと思えるようになると思います。そして、それがこれまで以上に良い心理支援につながっていくのです。
【著者】
髙坂康雅
和光大学現代人間学部心理教育学科 教授
プログラム
12:30~14:10 ①1コマ:アセスメントのポイント~心理職が知っておくべき身体の現象とその見方~
14:10~14:20 休憩
14:20~16:00 ②2コマ:BPSモデルを作ってみよう *事前のワークを解説します
16:00~16:15 休憩
16:15~17:55 ③3コマ:医学・心理・社会それぞれのアプローチを学ぶ
日時:2月23日(祝・金)12:30~17:55
場所:会場参加(大阪)/オンライン参加(ZOOM)
参考図書のご紹介
BPSモデルで理解する
症状、ストレス、対人関係などに悩む人の診かたが変わる
身体と心の「緊張」を読みほぐす!
心の悩みはさまざまな形で身体や感情、対人関係に現れます。その1つが緊張です。緊張という1つの体の反応を中心に、BPSモデルをもとに、人(クライエントなど)の見立て・アセスメント、心理職による具体的なアプローチ法についてまとめました。日々のカウンセリングや援助に役立つ一冊です。
目次
【はじめに】「緊張」を知ることは何につながる?
1 なぜいま「緊張」なの?
2 「緊張」をBPSモデルで考えよう!
3 「緊張」を知るための3つのケース
【第1章】緊張のメカニズム〜そのとき、身体に何が?〜
1 緊張って何?
2 自律神経とホルモン
3 緊張気質の心理社会的背景
【第2章】緊張の現れ〜身体と心と関係性に〜
1 緊張によって生じる身体的影響
2 緊張に伴う認知的・心理的反応
3 関係性における緊張
4 精神疾患からみた緊張
【第3章】緊張のアセスメント〜BPSモデルで仮説を立てる〜
1 ケース1のBPSモデルと仮説
2 ケース2のBPSモデルと仮説
3 ケース3のBPSモデルと仮説
【第4章】緊張に対する治療・アプローチ
1 BPSモデルに基づく治療・アプローチ
2 身体的アプローチ
3 心理学的アプローチ①認知行動療法
4 心理学的アプローチ②子どもの支援(遊戯療法)
5 社会的アプローチ
6 支援者の緊張とセルフアセスメント
【コラム】
①心療内科とは?
②心身一如
③周りの緊張がうつる?
④発達障害と緊張
⑤機能性は「気のせい」?
⑥タテ・ヨコ・ナナメの関係
発行:2023年6月
サイズ:A5判 216頁
価格:3,630円(税込)
ISBN:978-4-8404-8180-9