みなさんこんにちは!
ここまで#058から6回連続で「心カテ室での危険予知」についてお話ししてきました。

心カテ室での危険は、ここまでお話ししてきたことを含め、さまざまなことが考えられます。心カテのとき、「最大に危険な状態」を知るためのバイタルサインは、やっぱり血圧ですね。

今回は心カテ室で測定できる血圧について考えてみましょう。

心カテ室での血圧測定

心カテ室では次の3つで血圧を測定することができます。
①カテ先圧(カテーテルを通じて持続的に測定できる観血血圧)
②NIBP(マンシェットによる非観血血圧)
③シース圧(シースの側枝にトランスデューサーを接続して測る観血血圧)


では、それぞれの役割を考えていきましょう。今回はまず①カテ先圧です。#040のガイディングカテーテルのお話のなかでも書いていますので、よかったら読み返してみてくださいね。

カテ先の圧

カテ先の圧とは、造影カテーテルまたはガイディングカテーテルの先端の血圧であり、カテ中は冠動脈の入口付近の観血血圧です。

この圧は心臓の血液の出口付近の血圧なので最も中心の圧であり、そのときのイチバン高い血圧ということになります。そのため、カテ先の圧は、いまの心臓の血液拍出をリアルタイムに伝えてくれる信頼性の高い圧です。

このカテ先の圧が表示されたイチバン最初の血圧と、入室時に測定したNIBP(non-invasive blood pressure:非観血血圧)の圧を、まず比較しましょう。圧差がないか? あればどれくらいなのか? を確認します。

このイチバン最初のカテ先圧が表示されるまでに、何かしらのイベントがあった場合、例えばワゴトニー(迷走神経反射)や血圧が変動するような薬を投与した場合などは、もう一度NIBPを測定し、いま現在のNIBPと観血血圧の差を把握しておくようにしましょう。

カテ先の圧はカテーテル内を通じてトランスデューサーに伝えるので、カテーテルの中の状況によっては、正確な圧を伝えられない場合があるので注意が必要です(図1)。



※正確な圧を伝えられないAtoG
(A)カテーテル先端が血管壁や動脈硬化にあたっているとき
(B)カテーテルがキンク(捻れ)したとき
(C)カテーテルが冠動脈の中に入り込んでいる
(D)カテーテル内にデバイスが入っているとき
(E)Yコネが開いているとき
(F)インサーターが入っているとき
(G)造影剤が入っているとき

(A)カテーテル先端が血管壁や動脈硬化にあたっているとき

この現象は危険サインです。カテーテルの先端の圧を表示しているので、カテーテル先端が大動脈の壁や冠動脈の壁、冠動脈内にある動脈硬化などにカテーテル先端があたっていると観血血圧がまったく出なかったり、ほとんど出なくなったりします。 このときにカテーテルから造影剤を噴射させると動脈解離を起こしてしまうことがあり危険です。 カテーテルをエンゲージ(カテーテルを冠動脈に挿入すること)しているときは、透視画像にてカテーテルが動いている様子を見ます。そのタイミングで同時に観血血圧をモニタリングして、突然圧が消えたりすれば、すぐに施行医に圧が出ていないことを伝えるようにしましょう。

(B)カテーテルがキンク(捻れ)したとき

カテーテルをエンゲージしているときに、鎖骨下付近などの動脈血管が蛇行しているようなときには、カテーテルを回して冠動脈にエンゲージしようとしてもカテーテル先端が冠動脈入口方向に向かず、さらにカテーテルを回すことでカテーテル途中が捻れてキンクする場合があります。その場合は、突然、観血血圧が消えてなくなります。すぐに施行医に圧が出ていないことを伝えるようにしましょう。そのカテーテルはもう使えません。捻れを慎重に戻してガイドワイヤーを入れて慎重に血管内から取り出します。代わりのカテーテルを用意しておきましょう。

(C)カテーテルが冠動脈の中に入り込んでいる

カテーテルがすっぽりと冠動脈の中に入ってしまった状態のことを「カテーテルがウェッジした」っていいます。ウェッジしてしまうと冠動脈に血流がいかなくなってしまいます。心筋虚血が持続的に起こってしまいますので、心電図変化・症状の出現などが起こってしまうかもしれません。血圧波形がウェッジを示すような波形になった場合には、すぐに施行医に伝えましょう。

(D)カテーテル内にデバイスが入っているとき(6Fr以上のカテを使用しているとき)

ガイドワイヤーだけやバルーン1本・IVUS(intravascular ultrasound:血管内超音波)とかであれば大丈夫ですが、ワイヤー2本にバルーン2本とかローターブレータやDCA(directional coronary atherectomy:方向性冠動脈粥腫切除術)など太いデバイスがカテーテル内に入っていると内腔を塞いでしまいますので、観血血圧は正しく表示されなくなります。

(E)Yコネが開いているとき

ガイディングカテーテルに接続されているYコネクターは開閉する弁になっており、デバイスの出し入れのときに弁を開くと、そこから圧が逃げ(血液が出てくる)、観血血圧は正しく表示されません。

(F)インサーターが入っているとき

Yコネの中にガイドワイヤーを入れるときに使うのがインサーターです。このインサーターは0.014インチのガイドワイヤーを入れられるだけの穴が空いた筒です。インサーターがYコネに刺さっているだけの状態では、筒から圧が逃げて正しく観血血圧が表示されません。インサーターの中にガイドワイヤーが入っている状態であれば筒はある程度塞がれるので圧が逃げることはあまりありませんが、少し観血血圧が低く表示されることがあります。

(G)造影剤が入っているとき

造影剤は、生理食塩水や血液よりも粘稠度が非常に高くネバネバしています。そのため、カテーテル内に造影剤が満たされているときは正確に圧を伝えることができず、圧が鈍って(なまって)しまって観血血圧は正しく表示されません。特に診断カテーテルの場合はガイディングカテーテルよりも細いので圧鈍りがひどくなります。そのため、造影中は正しく観血血圧は表示されないことが多いということになります。


今回はカテ先で見られる観血血圧を詳しくお話ししてみました。次回、その他の方法で見られる血圧についてお話しします。その上で、カテ室での血圧のモニタリングの方法についてお話ししていきますので、次回以降もお付き合いよろしくお願いします。

それでは今回はここまで。
ありがとうございました。

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プロフィール:野崎暢仁
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人

メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。