みなさんこんにちは!

#067から心カテ手技中に心電図が変化しうるシチュエーションについてお話ししています。今回もその続きをお話ししていきたいと思います。

心電図を変化させるカテの手技

心電図に変化が起こるカテ中の手技には以下のものがあります。前回は⑥から⑧についてお話しました。今回は⑨から⑪について解説します。

①カテーテル挿入による冠動脈解離(#067
②左心室へのカテーテル迷入(#067
③冠動脈へのAir注入(#068
④造影剤投与による血液不足(#068
⑤カテーテルによる血流遮断(#068
⑥ガイドワイヤ先端による血管穿孔(#069
⑦IVUSでも血流途絶(#069
⑧バルーン拡張による血流遮断(#069
⑨薬剤投与による心電図変化
⑩削るデバイスによる心電図変化
⑪痛み・苦痛による心電図変化

⑨薬剤投与による心電図変化

薬剤投与によって起こりうる心電図変化もあります。カテ室でよく見られるのは、冠動脈に直接薬を投与(冠注)するとき、30秒ほどかけてゆっくり投与する場合があります。

例えば、アセチルコリン負荷試験のときはアセチルコリンをゆっくり、時間をかけて投与するので、そのときは冠動脈に血液でない薬剤が流れ続けることになり、心筋虚血が起こることがあります。これにより心電図変化が起こります。もちろんこれは一過性のものなので、影響はすぐに収まります。冠攣縮が起こっているときには、継続して虚血性の心電図変化が起こってきます。

また、カテ中に徐脈になることがあります。そんなときには硫酸アトロピンを投与します。例えば、迷走神経反射が起こった場合も、徐脈に対して硫酸アトロピンを投与すると数分で症状が自然に改善することがあります。

しかし、徐脈を確認してから、硫酸アトロピンを準備して投与するまでに自然改善してくるタイミングで投与すると心拍数が上がりすぎて頻脈になり、それにより患者さんはとてもしんどくなってしまいます。

薬剤の投与は、いまどんな状況かを把握し、もし徐脈から脱却しつつあるならば投与を中止すべきです。薬剤投与のタイミングも、心電図、バイタルが教えてくれます。

⑩削るデバイスによる心電図変化

現在のPCIでは、石灰化を削る・プラークを削り取るなど、さまざまなデバイス(道具)を使って治療が行われます。治療方法、使うデバイスによって心電図変化の仕方が変わってきます。

例えば、石灰化を削る治療。右冠動脈を削っているときには徐脈に注意が必要です。とはいえ、右冠動脈の石灰化を削る治療のときには、多くの場合テンポラリーペースメーカーをあらかじめ挿入することが多いのではないでしょうか。ペーシングが入っていたとしても、毎回削るたびにちゃんとペーシングが入っているかどうかは確認しましょう。

石灰化を削る治療の心電図監視でとても大切なのは、削った後の心電図変化です。削っているときから虚血の変化を示すST変化を認めることがありますが、そのST変化が削り終わった後に元に戻るかどうかというのはとても重要です。削ったカスが末梢の血管に溜まってしまい、それにより持続的に心筋虚血が起こり、ST変化をするばかりか胸痛などの症状が続いてしまいます。ニコランジルなどの冠動脈投与が必要となるシチュエーションになります。

プラークを削り取るデバイスもあります。削り取るカッターや削り取ったプラークをデバイスの中に入れて回収するため、結構太いデバイスになります。また、削れる方向が決まっているため、その方向を決めるために冠動脈の狭窄のある部分で太いデバイスを長い時間(数十秒)止めることになります。

削るときにはゆっくりと削り取るため、1回につき15秒くらい時間を要します。なおかつそれを6回程度繰り返すため、数分間、冠動脈の血流が乏しくなってしまいます。それにより、やはり心筋は虚血となり、心電図変化・症状が発生してしまいます。

⑪痛み・苦痛による心電図変化

カテ中は心筋虚血による胸部症状や穿刺部痛に加え、もともと腰痛がある場合には、カテ台で動けないことによる痛みを感じることがあります。また、尿意を我慢する苦痛もあります。

そんなときに心電図を見てみると、基線(心電図のベース)が大きく揺れ動くことがあります。心電図の基線が大きく揺れ動いているのを認めたら、患者さんに声をかけに行きましょう。何らかの訴えがあるかも知れません。


今回お話したように、カテ中の心電図の変化はSTの変化だけでなく、さまざまなシチュエーションで、さまざまなことを私たちに教えてくれます。心電図は何もなく突然変化することはありません。何らかの理由があるはずです。ということは、その理由の発生を予測できれば、どのシチュエーションでどういう変化が起こるか、心電図の変化も予測できるということになります。

もし予測することができれば、モニタリングに常にかぶりつく必要がなくなり、少し余裕が出るのではないでしょうか。


では、今回はここまで。
ありがとうございました。

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プロフィール:野崎暢仁
新生会総合病院 高の原中央病院
臨床工学科 MEセンター
西日本コメディカルカテーテルミーティング(WCCM)副代表世話人

メディカセミナー『グッと身近になる「心カテ看護」~カテ出しからカテ中の介助、そして病棟帰室後まで~』など多数の講演や、専門誌『HEART NURSING』、書籍『WCCMのコメディカルによるコメディカルのための「PCIを知る。」セミナー: つねに満員・キャンセル待ちの大人気セミナーが目の前で始まる! 』など執筆も多数。