背景

2022年7月号の『コミュニティケア』(日本看護協会出版会)では「訪問看護事業を承継する」が特集されました。また、2022年11月開催の第12回日本在宅看護学会学術集会のテーマが「在宅看護のサステナビリティ」となりました。訪問看護ステーションの数も1万3,000カ所を超えて、今までの訪問看護ステーションを増やす時代から、訪問看護事業をどのように継続、引き継いでいくのか? という課題にシフトしてきています。

事業承継という課題の対策として、中小企業庁は2015年には『事業引継ぎガイドライン』を策定し、2020年には全面改訂した『中小企業M&Aガイドライン』を策定しました。

同年2020年、厚生労働省は、医療法人・社会福祉法人の経営の大規模化等を目的として、『社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン』を策定し、社会福祉法人に通知をしました。

その流れを受けて、2020年に訪問看護ステーション事業承継検討委員会が結成され、2022年7月28日に、『訪問看護ステーション事業承継ガイドライン』が公開されました。(訪問看護ステーション事業承継ガイドライン)

このたびは、『訪問看護ステーション事業承継ガイドライン』の活動に関して報告します。


『訪問看護ステーション事業承継ガイドライン』

訪問看護ステーション事業承継検討委員会 活動の流れ

訪問看護ステーションの経営支援や教育支援を実施している、一般社団法人訪問看護支援協会が発起人となり、検討委員会は進んでいきました。
訪問看護支援協会は、2015年から訪問看護ステーションの統廃合支援を実施している関係で、事業承継に関するノウハウや人的ネットワーク、事例をもっていることから座長に任命されました。

検討委員会のメンバーは、事業承継の専門家である一般社団法人日本M&Aアドバイザー協会や医学博士、公衆衛生学修士をもつ医療介護事業に強い弁護士、大小の訪問看護事業承継経験者や介護経営の専門家から結成されました。

筆者は、無医地区(へき地)であった地域で、2014年に訪問看護ステーションを立ち上げて運営しておりました。2017年に体調を崩したことをきっかけに事業承継を考え、悩み事業承継に関して模索して、2019年に事業承継を実施しました。事業承継を実施した当事者であることと、この事業承継に苦しんだ経験を他の訪問看護事業者にしてもらいたくないという想いから、「訪問看護の嫁入り」として、訪問看護の事業承継支援の活動をしていたことから、委員会に参画させていただきました。

委員会活動は、名称を決めることから丁寧に活動をしていきました。中小企業庁のように「M&A」という表現を用いるのがいいのではないか? 「事業継承」のほうが馴染みがあるのではないか? など、さまざまな案があがりましたが、「事業承継」に落ち着きました。「承継」という言葉には、事業を受け継ぐ際に、前任者が長年大切にしてきた理念や想いも共に受け継ぐ、という意味があることから採用されました。

以後は、中小企業庁の『中小企業M&Aガイドライン』では、網羅しきれていない訪問看護事業ならではの事例をあげていき、ガイドラインを策定していきました。

ガイドラインの内容

事業承継の目的、種類、タイミングやチェックポイント、一般的な流れといった事業承継の基本的なことから、訪問看護事業ならではの価格の算定方法や財務・法務・ビジネスでの評価視点、事業承継時の注意点(不正請求や残業代の未払いなど)や事例紹介などが紹介されています。

今後の活動

ガイドラインに関するオンラインセミナーを、訪問看護事業の経営者様を対象に行います。
他に「在宅看護のサステナビリティ」をテーマとする第12回日本在宅看護学会学術集会にて、「訪問看護事業承継ガイドラインと事業承継事例」に関する情報交換会を開催します(2022年11月19日(土)発表、アーカイブ配信あり)

サステナビリティ、すなわち「持続可能性」の手段の1つとして、事業承継という手段をどのように効果的に活用していくのか、学会活動を通してブラッシュアップさせていきます。

また、訪問看護事業は診療報酬改定が2年に1度行われ、介護報酬改定が3年に1度行われることから、医療介護事業の中で、ほぼ毎年変化が起きている業態です。
ガイドラインを公開することは、ゴールではなく、スタートです。訪問看護の変化に応じてガイドラインも進化させていきます。より多くの訪問看護に関係する方々の悩みの解決ができるように、日々活動して参ります。

坪田康佑
Twitter:感護師つぼ(@cango_shi)
一般社団法人医療振興会 代表理事
国際医療福祉大学博士課程
慶應義塾大学看護医療学部卒、専門学校教員を経て、米国NY州Canisius大学院MBA留学。コーチングファームにて、メディカルコーチング・エグゼクティブコーチングに従事。NEC社会起業塾出身、無医地区に診療所や訪問看護ステーションを開業。体調を崩し2019年全事業売却。
ユニーク看護師図鑑(https://cango.blog/)を運営している。