みなさん、こんにちは!
ポータブル吸引器の選びかたの6回目です。
第5回目では、ポータブル吸引器を選ぶときの流量は、
口鼻腔吸引 ➡ 15L/分以上
気管吸引(気管切開) ➡ 30L/分以上
というお話しをしました。
でも、日本にはこの30L/分以上の吸引器は存在しないということもお話ししました。
なぜ、30L/分もの吸引流量が必要なのか、もう少し説明していきます。
ヘルパーさんが、気管吸引をできるようになるために受講する「喀痰吸引等指導者講習」。
属にいう「第三号研修」では、成人の吸引を前提にマニュアルが作られていると思われます。
そして、吸引圧は-20kPaと指導されます。
第2回目で、子どもの気管吸引圧の安全吸引圧は、
新生児が-8~-10kPa、
小児が-10~16kPa
と説明しました。
でも、在宅医療で使用される吸引器では、この吸引圧だと吸引できません。
もちろん、吸引流量が30L/分以上あれば吸引できると思うのですが……。
なぜ、在宅医療では強い吸引圧が必要になるのでしょうか?
この理由は、子どもに使われる吸引チューブが細いことにあります。
身近な飲み物でイメージしてみましょう。
ちょっと昔話をします。
私が小学生になったころ、私の住む街にマクドナルドができ、兄がマックシェイクを買ってきました。
このときに初めて見たストローの太さにびっくりしたことを覚えています。
何でこんなに太いストローなんだろう? とそのときは疑問でした。
そう、ドロドロとしたマックシェイクを細いストローで飲むのには凄い力が必要なのですね。
これが吸引圧です。
子どもの飲む力では、太いストローでも大変だったのを覚えていますが、マックシェイクを吸ったまま、口をすぼめた形でストローを外すとたくさんの空気が入ってきます。
マックシェイクを吸う力、いわゆる吸引圧は空気を吸う量で作られているのです。
つまり、ストローは細くなればなるほど、抵抗が高くなるのです。
この抵抗の計算式は、
「半径の4乗に反比例」
になります(表1)。
直径4mmのストローと2mmのストローだと、2mmのストローのほうが2倍ぐらいの抵抗になると考える方も多いかも知れませんが、何と16倍の抵抗になるのです。
(4mm-2mm)を4乗なので、4回掛け算をします。
2×2×2×2=16倍
これは空気がスムーズに流れる(層流)ときで、実際の空気は乱流になるので、5乗となり、32倍の抵抗になります。
気道径と呼吸仕事量の関係を図1に示します。
呼吸仕事量とは、空気を吸うときにどれだけの力が必要かということで、気道の直径が細くなるほどその力が大きくなることを表しています。
8mmから6mmに直径が細くなっても、この力は大きく変わりませんが、4mmから2mmを見てみると急激に呼吸仕事量が上昇していきます。
これは、吸引チューブの太さが細くなっていくときも同じような関係になります。
気管径を気管吸引のチューブに置き換えると、次のようになります。
吸引チューブが細くなると ➡ 気管吸引に高いエネルギーが必要
となり、
気管吸引のエネルギーの源は ➡ 吸引圧+吸引流量
になるのです。
細い吸引チューブを使用する小児の場合、吸引流量の少ない在宅用吸引器では「第三号研修」で指導される-20kPaだと、分泌物が引けないということを理解していただけるでしょうか。
在宅医療で使用する吸引器は、病院のようなパワーはないので、細い吸引チューブを使用する小さい子どもでは、強い吸引圧が必要なのです。
在宅医療では、吸引圧は-20kPaではなく、-30kPa~-40kPaでも良いと考えています。
強い吸引圧だと、気管粘膜は傷つきやすくなるんじゃない? と思われそうですが、吸引チューブの先端に数個の穴が開いている(多孔)タイプであれば、気管粘膜に張りつくことはないのです。
ただ、在宅医療では「第三号研修」で指導される-20kPaで、できる限り病院と同じ手技で吸引できる吸引器を選ぶということが必要になるのですね。
そのため、「吸引流量の多い吸引器を選ぶ」
これが、在宅医療では重要なのです。
次回は、吸引器の失敗しない選びかたをご紹介します。
KIDS CE ADVISORY代表。小児専門病院で35年間働き、出産から新生児、急性期、 慢性期、在宅、ターミナル期すべての子どもに関わった経験をもつ臨床工学技 士。メディカ出版のセミナー講師も務め『完全版 新生児・小児のME機器サポー トブック』などの著書がある。KIDS CE ADVISORYのHPは▶医療コンサルタント | Kids Ce Advisory
イラスト:八十田美也子 みやよしえ
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