今回のテーマは「家族への対応」について。
もしかしたら僕のことを知っている人は「一番おぬさん得意なやつだね」って言われるかもしれない。
けど、このテーマ、自分がトラウマになっているぐらいつらいエピソードがある。



僕は社会人を経験して31歳で看護師になった。

社会人時代も医療・福祉に関係をしているところが多かった。
だから新人のわりには「あれこれ知識がある」看護師として評価されていた。

そう、自分でも「知識はあるぞ」と思って、それを強みとして働いていた。

新人のころはとにかく「患者さんのためになんとかしないと」という気持ちが強かった。
自分の受け持ち患者さん以外見えないみたいな、視野の狭い日々だった。


あるとき、受け持ち患者さんの家族から、公費についての相談を受けた。
たしか高額療養費制度についてだったと思う。

聞かれたこの分野、僕は社会人のときに仕事で携わっていた分野。
だから僕は意気揚々と説明した。
家族も疑問が解決したのかすごく満足され、僕も「良い対応ができたな」と思っていた。
「看護のことはよくわからないけど、こういう公費については強みがあるな」なんて自負していた。


ところが、だ。

翌日、僕はプリセプターに呼び出された。

「あの患者さんに、医療費制度についていろいろ話した？」と。
ええ、言いましたって伝えたら深くため息をつかれた。

「あのさ、そういう説明はMSW（医療ソーシャルワーカー）がやるものであって、看護師は踏み込まなくていいの。『MSWと相談してみてください』って伝えればいいのよ。どうもあなたが説明したことで、家族が混乱したみたいなの。『看護師さんが言ってたから間違いないと思ってた』みたいに言ってたらしいのよ。家族が不安に思ってしまうし、なにより、そういうことは担当の業務があるんだから、あんまり家族を混乱させないためにも言わないほうが良いわよ」と言われた。


なるほど。僕が知っていた知識が変わっていたのか……。

それより、僕の言葉は、“専門職が言った言葉”だから重みがあるのか……。


なんか自分の知識をひけらかしただけで、それが正しいかもわからず伝えてしまい、家族が混乱してしまったことがとても心苦しく思った。
とても反省した。

このことをきっかけに、今になっても「家族対応」が苦手。

「余計なことを言ってしまうんではないだろうか」や「僕の言葉が引き金に問題になるのではないだろうか」などと思ってしまう。
けれど、それでも対応しないといけない。

とにかく、いつも「自分の範囲外の質問がきたら、専門家に任せよう」を心に対応しています。
やっぱりね、「餅は餅屋」なんですよ。
いくら自分が知っていることでも、その専門家におまかせする。
中途半端な知識は相手を困らせるだけ。
そしてなにより、たくさんの人を通すことで「責任」が分散しますからね。


社会人経験のある看護師は、一度ぐらいはつまずく道なのではないでしょうか。
僕は「何も知らないほうが幸せだな」って思ってました。
今となっては、自分の知識も活かしつつ、専門家に委ねるという技術を身につけました。

//バックナンバー//

#001　はじめての尿カテ
#002　大好きな検査値
#003　ナース服のポケットに忍ばせたメモ
#004　患者の死
#005　はじめての経管栄養
#006　新人のうちはアラームになれ
特別編　いまこの時代に精神科看護師として働くこと
#007　夜勤前のルーティーン
#008　入院時のルーチン

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fractale～mizuki～
twitter：mizuki@おぬ 9年目看護師（@c_mikzuki）

乗り物好きな看護師。事務職、データベースエンジニアを経て31歳で看護師に。脳外科、回復期、精神科病棟を経験。その後は在宅医療を経験し、再度精神科病棟へ。看護師クリエイティブプロジェクト「fractale」管理者。医療メディア「メディッコ」メンバー。看護師のキャリアについて考える「ナスキャリ部!」副部長(仮)。その他多数プロジェクトに参加。好きな言葉は「まだ見ぬ誰かの笑顔のために」。好きな看護技術はひげ剃り(その他ほぼ不得意)。好きな看護業務はリーダー業務。好きな都バスの路線は【業10】新橋～とうきょうスカイツリー駅前。 

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