看護師クリエイティブプロジェクト「fractale」のみなさんが、毎回テーマに沿ってそれぞれの看護の足跡を残していく本企画。

「学びかたを学ぶことで看護師として生きる選択肢をふやしていく」ことをコンセプトに立ち上げたメディア「メディカLIBRARY」のスタッフが、毎回、フラクタルのみなさんにテーマを伝えています。

今回のテーマは「退院後の患者さん」を綴っていただきました。

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こんにちは。
今回のテーマは「退院後の患者さん」です。
このタイトルを聞いたときに、「お!在宅の得意分野!」って思ったんです。
退院後にいきいき生活してる患者さんのこととか描写しようと思ったんですよね。
けど、それじゃいつもと変わらないなって思いました。
なので、今回はすこし視点を変えて、在宅へ移行するときに難しさを感じるケースについて書きたいと思います。


予期していなかった病気により、急遽、入院生活を強いられることがあります。
まさか自分が、と、本当に驚きますよね。
患者さんは、日常生活に戻ることを目指し、療養します。
人によって期間はまちまちですが、おそらく大部分の人が長いと感じるでしょう。

その長ーい非日常生活も基本的には終わりがあるので、最終的には家に帰れます。
ようやく、日常に戻れるのです。
患者さんも家族も待ちわびていた瞬間だし、わたしももちろん、この瞬間は本当にうれしいです。


でも、なかには、日常に戻れない人もいるんです。
とくに、後遺症が残った方は、病気の前後で生活が一変してしまいます。
今までの日常は完全には戻ってこないので、ここからは、非日常を日常にするよう、適応していくしかないのです。


これです。
こういったケースへの支援が、非常に難しいことがあります。
精神的なケアももちろん大切ですし難しいのですが、ここで言いたいのは、「どうやって生活するの?」状態で退院してくる人が案外多いということです。

なんのこっちゃ、と思っている方もいると思うので、具体例でお話します。

以前、麻痺が残り退院した方がいました。
退院後の自宅環境は、入院前とまったく同じ状態でした。
ちなみに独居です。
初回訪問のとき、布団の上にぽつんと座っていた患者さんは、「なんにもできないね、これじゃ」と失笑してました。
すでに1回転倒したとのことでした。
急いで手すりから和式トイレ改装からいろいろ整えましたが、本当、これって笑いごとではないですよね。
“安全な生活のための必要なもの”が整っていない生活は、リスクと隣り合わせです。
どんなに早く調整を始めたって、生活環境を整えるには、時間がかかるんです。
しばらくは不安な生活を余儀なくされます。
入院中は人がいたのに、今は1人。
ただただ、つらいですよね。


先程も書きましたが、訪問看護師として働いていると案外こういったケースは多いです。
「明日から訪問看護入れますか?」のように、急遽、訪問が開始されることもしょっちゅうあります。
患者さんの退院したいという訴えに耳を傾けることや、スピード感は大事だと思いますが、安全ベースの介入にしていきたいものです。
もうすこし早い段階から情報だけでも得られていれば、患者さんの生活をもうすこし、安全なものにできるのにな、と、なんとももどかしい気持ちになります。

いまは“密”を避けないといけない時代ですが、だからこそ情報共有を密にして、関係各所との関係を濃密にして、こういったケースを防いでいきたいですね。

//バックナンバー//

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#002 なにがなんだかわからないケンサチ
#003 大きいからポケットには到底入らない
#004 家族じゃないからこそできること
#005 経管栄養とは
特別編 在宅は1人の感染が命取り
#006 自分にできることをやろう
#007 戦いは前日から
#008 波形だけじゃないよ、心電図モニター
#009 大切な人
#010 Positioning
#011 丁寧に、確実に
#012 小さな気遣い、大きな違い
#013 訪問看護と教育
#014 オンライン学会に参加して
#015 いちばん苦手な時間
#016 だって、忘れちゃうんだもの
#017 クラシカル訪問看護
#018 生きていく手段
#019 万能なケア
#020 転職は転機になりますよ
#021 絶妙な力加減
#022 なんとかなる
#023 学生さんの力
#024 夜勤時の戦友
#025 仕事道具なのかはわからないけど
特別編 sick of COVID-19
#026 まだまだ書き足りない
#027 コントラスト
#028 意外だった参考書
#029 看護師を目指した2つのきっかけ
#030 みんなでひとつ

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fractale~satomi~
twitter:さとみ(@minisatominy

三度の飯よりお酒が大好きな飲兵衛看護師。仕事終わった瞬間からが本番だと思っている。仕事は真面目な自信あり。大学病院消化器外科3年、民間病院ICU2年、公立病院脳外科夜勤専従、訪問入浴、デイ、老健など1年の派遣生活を経て、メルボルンへ10ヶ月の看護留学。帰国後から訪問看護師として働き3年目。座右の銘は「笑う門には福来たる」。根からの明るい性格を最大限に利用し、日々楽しく訪問中。マルチポテンシャライトだから特技っていう特技はないけど、強いて言えばラポール形成が無駄に得意。今までクレームや担当変更がないのが密かな自慢。ちゃっかり保健師免許所有。 

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