看護師クリエイティブプロジェクト「fractale」のみなさんが、毎回テーマに沿ってそれぞれの看護の足跡を残していく本企画。

「学びかたを学ぶことで看護師として生きる選択肢をふやしていく」ことをコンセプトに立ち上げたメディア「メディカLIBRARY」のスタッフが、毎回、フラクタルのみなさんにテーマを伝えています。

今回のテーマは「退院後の患者さん」です。

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病院で働いていると、退院後の患者さんのイメージってつきますか?
私、ずっと病院で働いていたため、退院後の患者さんのことってわからなかったんです。病棟から退院で見送るときも「お大事に~」と言って見送るけど、病棟から一歩出たらそこから先はまったくわかりませんでした。

あるとき、病棟で働いてた私は、まもなく退院となる患者さんが外泊で自宅に行かれたんです。
ところが、その患者さんの薬を一部渡すのを忘れてしまったんです。
それに気がついたので、上司に報告。
本来なら家族に取りに来ていただくことになるのですが、私がどうしても直接渡して謝りたいと申し出をし、家に出向いて渡すことになりました。
仕事終わりに伺うと家族に連絡し、渡し忘れた薬を持って患者さんの自宅に向かいました。


その患者さんは入院中は訴えの多い患者さんで、正直自分は苦手としていた人。
家族の方はとても献身的に、入院中は週に何度も面会に来られていました。
私が伺ったときはちょうど夕食時でした。
インターホンを押して、玄関から出てきたのはお父さん。
「すみません、お薬の一部をお渡しするの忘れまして。寝る前に飲んでいただきたいと思います」とお伝え。
すると「いやいや、本当すみませんでした。帰り道なんですか?」とお父さん。
けっして帰り道ではなかったけど「あ、そうなんです、こちらの方面なんで。本当すみませんでした」と話すと、ちょうど奥で患者さんが夕食を食べてました。

その患者さん、ものすごく笑顔で夕食を食べていたんです。

「あ、この表情、見たことなかった……」

病棟では訴えが多い患者さん、しかし家族との夕食とはこんなに笑顔。
本当に自分のなかで衝撃が走りました。

「病棟で家庭のように自然に過ごすことはできないんだな」
この出来事をきっかけに、僕は在宅に興味をもつようになりました。

その後、患者さんは無事退院していきました。
病院で見せる表情は、その人のすべてではないことをしっかり胸に刻む出来事でした。

//バックナンバー//

#001 はじめての尿カテ
#002 大好きな検査値
#003 ナース服のポケットに忍ばせたメモ
#004 患者の死
#005 はじめての経管栄養
#006 新人のうちはアラームになれ
特別編 いまこの時代に精神科看護師として働くこと
#007 夜勤前のルーティーン
#008 入院時のルーチン
#009 看護師が伝える言葉の重み
#010 体位変換
#011 想像と違うオンコール
#012 好きな手技
#013 後輩が持つノートのサイズ
#014 時代がようやくついてきた
#015 自分の視点を伝えること
#016 昼間と夜間は仕事が違う
#017 「つながりは大切!」ってのはわかるんだけど
#018 看護師を辞めない理由
#019 やっぱり苦手な清潔ケア
#020 今度こそは看護師をしないぞと思う
#021 患者さんとのディスタンス
#022 自分は人とは違う
#023 たぶん人生でいちばん嫌だったとき
#024 看護師という運命共同体
#025 看護師1年目から使い続けているもの
特別編 そろそろ先が見えてこないかな
#026 僕が伝えたいこと
#027 たいへんなときのなかでの入職
#028 必死に受かろうとして手にしたもの
#029 看護師からのひとことが決めた未来
#030 1人の人にかかわる人々

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fractale~mizuki~
twitter:mizuki@おぬ10年目看護師(@c_mikzuki

乗り物好きな看護師。事務職、データベースエンジニアを経て31歳で看護師に。脳外科、回復期、精神科病棟を経験。その後は在宅医療を経験し、再度精神科病棟へ。看護師クリエイティブプロジェクト「fractale」管理者。医療メディア「メディッコ」メンバー。看護師のキャリアについて考える「ナスキャリ部!」副部長(仮)。その他多数プロジェクトに参加。好きな言葉は「まだ見ぬ誰かの笑顔のために」。好きな看護技術はひげ剃り(その他ほぼ不得意)。好きな看護業務はリーダー業務。好きな都バスの路線は【業10】新橋~とうきょうスカイツリー駅前。 

about fractale
https://fractale3.com/mizuki/